凌霜第418号 2018年07月10日

凌霜-表紙.jpg    凌霜第四一八号目次

◆巻頭エッセー 卒業50年・神戸大学との再会   田 邉 弘 幸 

◆目 次       

◆母校通信      藤 田 誠 一 

◆六甲台だより    行 澤 一 人 

◆本部事務局だより          一般社団法人凌霜会事務局 

 通常理事会で平成30年度事業計画及び予算など可決/平成30年度会費納入のお願いと終身会費などのお知らせ/ご芳志寄附者ご芳名

◆(公財)六甲台後援会だより(53)      (公財)神戸大学六甲台後援会事務局 

◆大学文書史料室から(27)        野 邑 理栄子 

◆凌霜俳壇  古典和歌  

◆学園の窓

 法学研究科の資産活用          大 西   裕 

 カンボジア農村調査で学生は何を学ぶか      石 黒   馨 

 国際法学者、初めて南極に立つ!    柴 田 明 穂 

 米国での在外研究を終えて     宮 尾   学 

◆凌霜ゼミナール 

平成29年度大学教育再生戦略推進費「課題解決型高度医療人材養成プログラム」                                                     藤 澤 正 人 

◆六甲余滴 企業内弁護士の実態              新 熊   聡 

◆本と凌霜人 「泥沼的青春譜」              高 橋 武 彦 

◆六甲台ゼミ紹介 経済学部・藤田誠一ゼミ       田 中 裕 貴 

◆学生の活動から

 六甲台就職相談センターでのアシスタントを通じて   新居   菜津希

  「This is Me」                    村 上 瑠 以 

   就職活動と六甲台就職相談センターのアシスタント業務を経て思うこと                                                   安 田 周 平 

◆六甲台就職相談センター NOW

 アクティブリスニング(「積極的傾聴」)    浅 田 恭 正 

◆表紙のことば 四万十川と土佐中村      木 村   正 

◆随想ひろば 夢に向かって        齋 藤 千 尋 

◆クラス大会予告 凌霜43年会              

◆クラス大会 イレブン会            

◆クラス会 しんざん会、さんさん会、三四会、珊瑚会、むしの会、双六会、神戸六七会、四四会、与禄会、

教養11クラス会...43年入学、互礼会

◆支部通信 東京、三重県、大阪、神戸、島根、熊本県、大分    

◆つどい えんの会、トヨタ凌霜会、水霜談話会、大阪凌霜短歌会、 東京凌霜俳句会、大阪凌霜俳句会、凌霜川柳クラブ、

    神戸大学ニュースネット委員会OB会

◆ゴルフ会 名古屋凌霜会、芦屋凌霜KUC会、廣野如水凌霜会,

能勢神友会、垂水凌霜会、花屋敷KUC会

◆追悼

 村上敦先生(昭32経修)を偲ぶ    松 永 宣 明 

 山藤正直君(昭33経)を悼む        廣 瀬 駒 雄 

◆物故会員      

◆国内支部連絡先              

◆編集後記      行 澤 一 人 

◆投稿規定      

巻頭エッセー

卒業50年・神戸大学との再会

                                       昭43営 田  邉  弘  幸

                                                   (双日㈱顧問、神戸大学特別顧問)

 早いもので1968(昭和43)年経営学部を卒業後今年で50年が経過しました。本年11月には43年卒業の凌霜生が六甲台に集い卒業50周年の記念集会を催す予定です。

 大学卒業後、日商岩井(現在の双日株式会社)に入社しましたが、この年は日本のGDPがドイツを追い抜き世界第2位に躍り出た記念すべき年でもありました。爾来2010年に中国に追い越されるまで40年有余このポジションを維持してきたわけですが、この間の日本経済の成長の軌跡は、グローバリゼーション深化の歴史と表裏をなすものでありました。

 私自身は延べ9年間に亘る海外駐在生活(NY)も含め、会社人間としてビジネスの維持拡大と新しい事業創出を目指して駆け抜けてきた50年でありました。日本企業の一尖兵として、日本の成長と共に会社生活を送ることが出来た事に深い感慨を覚えております。2012年以降現在に至るまで双日㈱の顧問を務める傍ら、神戸大学での連続リレー講義、筑波大学でのゼミ等を受け持つ事で知的好奇心に刺激を加え、大好きな音楽活動等へ参画する事で情操面の安定を得、それなりに充実した生活を楽しく過ごさせて頂いております。

 実は私自身は最近になり再び神戸大学との関係が復活しています。社会人・卒業生による寄附講義・リレー講義の神戸大学への招致を行うと共に、リレー講義などでの講師として登場していること、また社会連携の観点から神戸大学の特別顧問に就任したことなどが、それです。

 この機会に、最近の神戸大学での講義(1〜2年生対象)で話した「日本を取り巻くグローバリゼーションの現状と、講義を通して知り得た学生の反応など」に就いて、私見を述べさせて頂きます。

 日本企業の海外進出は、1970年代後半から1980年代前半にかけての主として米国との貿易赤字に発する軋轢を経て、1985年プラザ合意による円高定着により決定的となりました。現在では上場企業の凡そ70%が海外に進出、日経新聞の調査では日本企業の海外拠点は70、000箇所を超えています。海外在留邦人数は昨年末で130万人、これは神戸市の生産年齢人口(15歳〜64歳で100万人)よりも多い人数です。そして昨年度はこれら海外企業からの配当(金融収支も含む)は何と18兆円と史上最高値を記録しています。資本収支の大幅なプラスは、日本の経常収支黒字化に大きく寄与しています。詳細は省きますが、海外への直接投資は5年連続で年間1、000億ドル以上を継続、米国・中国に次ぎ第3位です。また、これら海外の日系企業による売り上げは(対日販売を除いて)推定200兆円を優に超えており、日本からの輸出全体の3倍程度のスケールとなっている事実はそれ程知られていません。これらの結果、金融資産を含め日本の持つ対外純資産は3兆ドルを超え、ドイツ・中国を押さえ世界最大を誇っています。

 ここまでは、ホウ素晴らしい、日本もまだまだよく頑張っとる、と言う事でしょうが、将来を考えた場合幾つか気になることはあります。先ず、中長期目線での大きな改革、税制、財政、社会保障制度、等は喫緊の課題であること論を待ちません。中でも我が国の少子高齢化傾向は重大事です。将来の税収、国家予算の在り方、社会制度の根幹を大きく揺るがしかねません。

 日本創成会議(増田寛也座長)は、生産年齢人口は現在の7、600万人から2060年には4、400万人になるとの予測を出しました。また、現在の65歳以上人口4、600万人(全人口の36%)は、2050年には5、500万人と予測され全人口の50%を超えます。高齢者の働く場の確保、女性・外国人労働者・移民等の積極的な活用、併せて生産性向上、イノベーション、IT活用など凡そ考えられ得る対策案は俎上には乗っています。しかしです、眼に見える動きは未だありません。この様な状況下現在注目されている動きとしてジェロントロジー(Gerontology)があります。辞書では「老人学」とあります。

 寺島実郎氏はこれを「高齢化社会工学」として、日本は上記諸課題を体系的に解決する実践的なツールを確立させる必要があるとしています。高齢化先進国日本として、その処方箋を作り上げ高齢化対策の先鞭を付けるべく世界をリードする大きなチャンスが存在する、と捉えたいですね。

 第2に、これだけ日本のグローバリゼーションが深化しているにも拘わらず、日本の国際競争力は依然として低下傾向にあります。定評あるスイス・IMDによる世界競争力ランキングは世界で26位(アジア諸国の中でも7位)。1990〜1992年頃は世界トップでした。また、比較的従来の指標と経済規模を念頭に入れた世界経済フォーラムによるランキングでも9位です。

 第3に、反対に外国からの対日資本投下が極端に少なく、対内直接投資(FDI)は世界で25番目であり、金額では114億ドルにしかすぎません。参入障壁、税制、許認可手続き、登録手続きなどなど諸外国に比べるとその自由度が少ない事もその理由の一つです。因みに、世界銀行が毎年行っている世界ビジネス環境調査(Ease of Doing Business)2016年版では何と世界では34位となっています(アジアでも7位)。魅力的な投資先では無い日本と言ったイメージが拡散される中で、アジアの多くの国々は規制緩和の実行などによる外資導入とその結果としての経済成長を勝ち取りました。

 以上は講義概要の一部でしかありませんが、これらを踏まえた学生との議論の中で気になった事を下記してみます。

 毎回の講義の中で「新入社員のグローバル意識調査」に就いて紹介します。これは産業能率大学が3年に一度行っているサーベイで、2017年度「海外で働きたくない」新入社員は60%を超えています(因みに2001年は29%でした)。同じ調査で「日本企業はグローバル化を進めるべきか」との質問に対しては約80%が進めるべき、との回答。グローバリゼーションは必要とするも海外に出る事を躊躇する新入社員が多い結果に、腹を立てている自分があります。まして、海外で働きたくない理由として挙げられている3大理由が、①語学力に自信が無い②海外は生活が不安③仕事に自信が無い、なのです。

 これに就いても学生達と議論します。意識が高いと言われている神戸大学の学生の場合、海外に行きたくない学生は60%まではいませんが、この三つの理由に就いては完全にシンクロします。そこで捲し立てる訳です。納得の行く「自信」を得てから海外へ行くなんて論外。今自信が無いから新しい事に挑戦しないと言うに同義、それは今後の自分の将来を放棄する事に繋がる。これだけ経済活動がグローバル化する中で、ヒト・モノ・カネの中のヒト(日本の若者)だけが内向きでどうする?外国のヒト・モノ・カネとこれから競合しつつ連帯もして行かねばならない。その為の切磋琢磨の場が大学生活であり、学生時代に一定の基礎体力、人間力を涵養して欲しい。神戸大学生の皆さんは、卒業後社会をリードして行かねばならない宿命を背負っている筈、意識を高く持って欲しい。などなどまた青い話を続けます。嬉しいのは講義終了後のレポートでは意外と多くの学生からポジティブな反応が返ってきている事です。

 もう一つ、ご存じの通り最近の若者は余り新聞を読みません。教室で確認してみると毎日読んでいる学生は150名中で10名弱。無論SNSその他の手段で情報を確認している学生は結構いますが多数とは言えません。その結果かどうかは別にして、マクロ的な捉え方とそれに基づく議論に対しては声が湿りがちになります。今までの生活の場で考えたことも無かったし、むしろ他人事としてしか捉えていなかったと言う事かもしれません。これは良くありません。自分で能動的に考える習慣を身に付ける事が必要です。読書の習慣はとても大事だし、多方面での議論を重ねる事等を通じて、情報のインプットと整理の仕方を学び自分の論理展開の幅を広げる事が必要です、などなど先輩面をして書生っぽく話します。神戸大学生もナカナカのモノです、多くの学生は率直に反応し、それなりに賛同の意を表し、これからはBird's Eyeで世界を見たい等と言うコメントを寄せる学生が幾人もいるのは心強いですね。社会人・卒業生の話を聞こうと言う学生は前向き人間の範疇に属するのかもしれません。

 世代間のギャップを認識しつつ、出来るだけ共通の言語で対話を継続する事の大切さを身に染みて感じています。最近の若者は!と言う前に、今後も彼らの中に飛び込んで胸襟を開いて話を続ける事が出来れば、と楽しみにしています。

筆者略歴

1944年三重県伊勢市生まれ。1968(昭和43)年神戸大学経営学部卒業、同年日商岩井㈱入社、2008年双日㈱代表取締役副社長、2012年双日㈱顧問。

その他現職...神戸大学特別顧問・客員教授、日本モーツァルト協会副理事長、筑波大学客員教授、東京六甲クラブ副理事長