凌霜第419号 2018年10月12日

凌霜419-表紙.jpg     凌霜四一九号目次

表紙絵 昭34営 有 岡 幹 雄

カット 昭34経 松 村 琭 郎

◆ 巻頭エッセー 県病から県立医大、そして神戸大学医学部     杉 村 和 朗 

目 次◆       

◆母校通信      藤 田 誠 一 

◆六甲台だより    行 澤 一 人 

◆本部事務局だより          一般社団法人凌霜会事務局 

 通常理事会で平成29年度事業報告及び決算書類など承認/第7回定時

 総会/臨時理事会で大坪清理事長らを再任/口座自動引き落とし、終

 身会費など便利な会費支払い方法のお知らせ/ご芳志寄附者ご芳名/

 事務局への寄附者ご芳名

◆凌霜俳壇  凌霜歌壇  

◆一般社団法人凌霜会決算書        

◆新入会員/新入準会員  

◆第11回(平成30年度)社会科学特別奨励賞(凌霜賞)受賞者              

◆凌霜寄附講義を平成30年度も開講        

◆(公財)六甲台後援会だより(54)      (公財)神戸大学六甲台後援会事務局 

◆表紙のことば 庭の石蕗            有 岡 幹 雄 

◆大学文書史料室から(28)        野 邑 理栄子 

◆学園の窓     身近なイノベーション          伊 藤 宗 彦 

          ウィーン滞在記        各 務 和 彦 

  カリフォルニア大学アーバイン校での在外研究を終えて      宮 崎 智 視 

          法学入門への迂路      米 倉 暢 大 

◆六甲台ゼミ紹介 経営学部・堀口真司ゼミ        木 内 聖太郎 

◆学生の活動から

 私の就活と凌霜OBOG学生懇談会        射手矢 祥 子 

 平成30年度第39回神戸大学六甲祭開催のお知らせ  新 田 さな子 

◆六甲台就職相談センター NOW 就活状況今昔          浅 井 隆 司  

◆凌霜社外役員懇談会、凌霜経理財務担当役員管理職懇談会、

 凌霜人事担当役員管理職懇談会のご紹介            辻 本 健 二 

◆平成30年8月...思い出の海軍経理学校              白 羽 三 雄 

◆市民の潜在力が社会を拓く       島 田   誠 

◆クラス会 互志会、しんざん会、さんさん会、三四会、BM六〇〇会、            

     珊瑚会、イレブン会、むしの会、双六会、神戸67会、

     四四会、一休会

◆支部通信 東京、石川、大阪、神戸、鳥取県、広島      

◆つどい 竹中ゼミ10回生、男声合唱団グリークラブ、宝生会、凌霜謡会、      

     神漕会、ホッケー部東京OB会、二水会、関電KUC、

     シオノギOB凌霜会、水霜談話会、大阪凌霜短歌会、

     東京凌霜俳句会、大阪凌霜俳句会、凌霜川柳クラブ、

     神戸大学ニュースネット委員会OB会

◆ゴルフ会 芦屋凌霜KUC会、廣野如水凌霜会、能勢神友会、              

     花屋敷KUC会

◆追悼 故伊藤吾郎君(昭30営)を悼む      前 川   晋 

    河合甫夫君(昭40営)を送る         玉 越 芳 博 

◆物故会員      

◆国内支部連絡先              

◆編集後記      行 澤 一 人 

◆投稿規定  

    

<巻頭エッセー>

県病から県立医大、そして神戸大学医学部へ

理事・副学長 杉  村  和  朗

 私は昭和46年に神戸大学医学部に入学しました。西宮で育ったのですが、子どもの頃の阪神電車、阪急電車は三宮が終着でしたので、三宮以西にはあまり行く機会がありませんでした。医学部に願書を取りに行くときに、神戸駅で神戸大学医学部はどこですかと聞くと、〝県病ですか?〟と言われて、とまどったものです。卒業後もタクシーに乗ると〝県病ですか?〟と言われる時代が長く続きました。この様に言われる理由は神戸大学医学部の歴史にあります。

 明治維新後神戸病院が設立され、明治2年に病院内に医学伝習所が開設され、明治15年に神戸医学校となりました。経済的な原因でしょうか、残念ながら医学校は6年後に廃校となり兵庫県立神戸病院だけは残り、中核病院として兵庫県の医療を担ってきました。この様なわけで、兵庫県で信頼できる随一の病院として、県病と言われ続けていたようです。

 昭和19年に県立神戸病院内に県立医学専門学校が、昭和21年に県立医科大学が、昭和39年に神戸大学医学部が設置されました。設立当初から京都大学出身の教授が多く、神戸医科大学卒業生の教授は希で、卒業時には麻酔科教授1名だけでした。医師のキャリアパスとしては大学のような教育機関に残る、市中病院で専門性を磨く、開業するの3種類です。優秀な先輩が数多くおられるにもかかわらず、事実上大学教員への道が閉ざされている事実に愕然としたものです。その後、先輩達の努力によって、神戸大学卒の教授が数多く生まれており、他大学にも多くの教授を輩出しています。旧帝大のうち、東大と九大を除く5大学には神戸大学卒の教授が活躍しています。一方、神戸大学の教授選考は全国公募ですので、教授の卒業大学は北海道から九州まで、全国から優秀な方が集まってくれており、優れた業績を上げてくれています。

 さて、医学部附属病院についてご紹介致します。病院の規模を知る上でベッド数があります。法人化した2004年時点で、神戸大学は935ベッドで42国立大学病院のうち7番目でした。一方、病院への運営費交付金は旧帝大はもとより、700床規模の広島大学より少ない状況でした。先発校に比べて病床数の80%の運営費しかないため、教員、看護師も少なく、病院のパフォーマンスを計る上で重要な病床稼働率は80%に達していませんでした。法人化後、病院運営が厳しい状況であった別の理由に、運営費交付金の削減と、国立大学当時に建設した建物、設備費を利子を付けて返さなければならない債務償還経費が、318億あったことです。2004年の債務償還額は30億に達しており、当時の医業収益170億ではこの逆境を乗り越えることは極めて困難でした。

 当時経営担当の副病院長をしておりましたが、執行部としては935床という箱を有効利用しないと、収益を上げることはできない、つまり人材投資をして収益を上げるという決断でした。近畿圏の大学病院に先駆けて7対1看護を開始するために200名の看護師を採用しました。人材投資の結果、2012年には常勤・非常勤教員は314人から656人(209%)に、看護師は432人が883人(204%)に、技師は92人が185人(201%)に増加しました。残念ながら事務職員には十分配備ができず、非常勤職員の増員で対応せざるを得ませんでした。この間の人件費増は44億になります。人材投資が奏功して、2012年には医業収益は281億と110億増加し、2015年度は病床稼働率は92・5%と全国トップに位置し、医業収益も昨年度は332億まで達しています。

 大学病院の本分は、診療、教育、研究をバランス良く進めていくことです。法人化以後、倒れそうになる病院を維持するために、人材以外は投資する余裕がありませんでした。機器の老朽化は進み、高度医療に対応するために新しい施設の整備が喫緊の課題でした。病院内にあった看護師寮を外出しして計画した新棟が、病院長任期が終わる2014年に低侵襲総合診療棟として開院しました。不足していた手術室も13室から17室に増やすことができ、MRIで確認しながら手術ができる設備や、血管造影装置を手術室に備えるなど、最新の設備を兼ね備えた施設になっています。170億を借り入れ、借入金を次期病院長に引き継ぎましたが、高度医療になくてはならない施設だと信じておりますので、ご容赦願います。

 神戸大学病院が一人前になった頃は、兵庫県の主だった病院、特に神戸より東の病院は先発大学から派遣されていました。ポートアイランドも神戸大学の存在感がなく、神戸メディカルクラスターには2013年に民間病院として発足した、神戸低侵襲がん医療センターだけしか関与していませんでした。京都大学の先生方が主導して、神戸市立中央市民病院に隣接して設立されたKIFMEC病院が2016年に閉院しました。閉院したKIFMEC病院を有効利用することが、メディカルクラスターとして極めて重要でした。当初からメディカルクラスターを主導してこられたシスメックス株式会社の家次社長の全面的な支援を得て、手術室を中心にした120床の病院として、2017年に神戸大学医学部附属国際がん医療・研究センター(International Clinical Cancer Research Center: ICCRC)を開設しました。このベッドを加えて、許可病床は1055床となり、近隣の京都大学、大阪大学と同規模となりました。

 2014年の低侵襲総合診療棟開設の時に手術室を17室に増やしましたが、手術増に対応できず、年間8800件前後で頭打ちになっていました。これを打開するためにICCRCに手術室を3室開設し、将来は5室に増やし、大学病院と緊密に連携しながら、手術に特化した病院として発展させる予定です。日本の大学では臨床と企業、あるいは工学部との連携の成果が中々上がりません。これは欧米と違い、臨床現場と研究開発が同じ場所にないことが大きな原因です。ICCRCでは病院内に医工連携チーム、企業のチームが常駐し、医療に近い環境を提供して機器開発、臨床研究のスピードを上げることが可能です。後任の病院長である藤澤教授を中心にしてロボットで定評のある川崎重工とシスメックスが共同出資して設立したメディカロイド社と連携し、日本発の手術ロボット開発に取り組んでいます。最初の成果として来年度には1号機が完成して臨床応用を始める予定にしています。この時のトレーニングや臨床研究もICCRCが中心になります。また、医工連携を積極的に進め、神戸大学発の材料によるデバイス開発や臨床研究に取り組んでいます。

 日本の医学部は、海外との医学交流は進んでいますが、医療交流は他のアジア諸国に比べて遅れています。ICCRCは国際交流を主たるミッションにしていること、メディカルクラスターは医療の国際交流を柱にしているため、神戸市と連携して海外との医療交流の窓口として、インターナショナル・メディカル・コミュニケーション・センターをICCRC内に開設しました。海外の大学病院、研究機関と連携し、メディカルクラスターの国際化に貢献していくことが大きな目的です。本年度に開設したところですので現時点では、まだ実績が上がってきていませんが、全国的にユニークなセンターとして注目されています。

 国立大学法人の運営費交付金は現在も毎年1・6%ずつ削減されており、大学全体としては2004年に比べて44億円減少しました。元々同規模大学に比べて運営費交付金が少ないので、医学部においても、人員削減や機器購入の遅れなど、大変苦しい状況です。病院収入を上げることによって教職員を採用し、機器を購入してきましたが、限界に近づいています。様々な研究費や先ほどご紹介したような企業との共同研究等に取り組み、外部資金を獲得し診療、教育、研究環境を整える努力を行っています。兵庫県は550万の人口を抱える大きな県ですので、唯一の綜合大学医学部として、兵庫県、神戸市の地域医療を支えるという大きなミッションがあります。このミッションを遂行するために、自治体からの支援を含めて連携をとっています。兵庫県の支援で設立した地域医療活性化センターを中心にして、地域医療を担いつつ人材育成を行っています。地域医療を学ぶなら神戸大学へ、を合言葉に存在感を高めています。

 神戸大学病院は様々な指標で県内でも1、2を争う高い評価を得ている病院です。凌霜会の会員の方々また身内の方の健康を自信を持ってお守りしますので、何時でも安心して受診して頂くようお願い致します。神戸大学病院は地域に根ざして、世界へ羽ばたく病院としてこれからも発展して、神戸大学に医学部があって良かったと、誇りとして頂けることを目指していますので、引き続きご支援の程宜しくお願い致します。

著者略歴

1977年神戸大学医学部医学科卒業、1982年同大学医学部助手、1987年島根医科大学医学部附属病院助教授、1994年同大学教授(放射線医学講座)、 1998年神戸大学大学院医学研究科教授(放射線医学分野)、2004年同大学医学部附属病院副院長、2007年同院長、2015年神戸大学理事・副学長。