凌霜第411号 2016年09月30日
凌霜四一一号目次 ◆巻頭エッセー 社会システムイノベーションセンターの新設と 期待される役割 泉 水 文 雄 ◆凌霜会理事長就任に当たって 大 坪 清 ◆凌霜会理事長退任挨拶 高 﨑 正 弘 ◆母校通信 藤 田 誠 一 ◆六甲台だより 行 澤 一 人 ◆本部事務局だより 一般社団法人 凌霜会事務局 通常理事会で平成27年度事業報告及び決算書類など承認/第5回定時総会/臨時理事会で大坪清・新理事長らを選出/口座自動引き落とし、終身会費など便利な会費支払い方法のお知らせ/ご芳志寄附者ご芳名 ◆第9回(平成28年度)社会科学特別奨励賞(凌霜賞)受賞者 ◆一般社団法人凌霜会決算書 ◆新入会員/新入準会員 ◆凌霜俳壇 古典和歌 ◆(公財)六甲台後援会だより(46) (公財)神戸大学六甲台後援会事務局 ◆大学文書史料室から(20) 野 邑 理栄子 ◆学園の窓 自由に生きるための経済社会学と大学教育の実践 藤 岡 秀 英 サステナビリティ経営に関する国際共同研究 西 谷 公 孝 教育・研究のこと 小 野 博 司 「KIMERAプログラム」について 西 村 幸 宏 ◆六甲余滴 TPPと農業の産業化をめぐって 絹 巻 康 史 ◆学生の活動から 平成28年度第37回神戸大学六甲祭開催のお知らせ 塩 原 清 夏 ◆六甲台就職情報センター NOW ―自分の強み(Partt2)― 浅 田 恭 正 ◆大阪凌霜クラブ創立40周年記念式典を開催 瀬 野 鋼太郎 ◆第1回関西職域担当者懇談会 岡 部 幸 夫 ◆第1回関西凌霜社外役員懇談会開催 辻 本 健 二 ◆本と凌霜人 「懐かしき歳月」 大 野 喜久之輔 ◆表紙のことば 英国産業革命の源流を巡る旅 竹 内 淳一郎 ◆リレー・随想ひろば 腰痛は もう結構 髙 倉 俊 夫 ミャンマーとの奇しき縁 藤 田 武 夫 実践と理論 柏 木 登 起 背伸びをすることの大切さ 武 分 拓 也 ◆クラス大会予告 19回生同期会、凌霜24回 ◆クラス大会 しこん会 ◆クラス会 凌専会、しんざん会、神五会、さんさん会、三四会、珊瑚会、 姫路白陵三下(3寮下)会、イレブン会、むしの会、双六会、 神戸六七会、神紳会...44年入学、凌霜互礼会 ◆支部通信 東京、三重県、京滋、大阪、神戸、福山 ◆つどい 凌霜謡会、二水会、シオノギOB凌霜会、神戸凌港会、 水霜談話会、大阪凌霜短歌会、東京凌霜俳句会、 大阪凌霜俳句会、凌霜川柳クラブ、 神戸大学ニュースネット委員会OB会 ◆追悼 斎藤発司君(昭31営)を悼む 服 部 史 朗 ◆編集後記 行 澤 一 人 ◆投稿規定 <抜粋記事> 巻頭エッセー 社会システムイノベーションセンターの新設と期待される役割 社会システムイノベーションセンター長 泉 水 文 雄 平成28年4月に社会システムイノベーションセンター(以下、「センター」といいます)が設置されました。神戸大学では平成24年度に社会科学系教育研究府(以下、「社系府」といいます)を設置しました。そこでは、社会科学系5部局の連携により社会科学系諸分野を中心としたさまざまな先端的・学際的プロジェクトが実施されてきました。センターはそれを改組し、さらに発展させようとするものです。なお、「センター」が設置されるのは、神戸大学の社会科学系と人文科学系において初めてのものです。 神戸大学では、平成28年度に、機能強化構想として「先端研究・文理融合研究で輝く卓越研究大学へ」とする「武田ビジョン」を策定し、様々な連携・融合の力を最大限に発揮する卓越研究大学として世界最高水準の教育研究拠点を構築し、現代および未来社会の課題を解決するための新たな価値の創造に挑戦し続けることを目指しています。平成28年度にはそれを実現するための戦略の一つとして「戦略2:社会課題を解決する文理融合研究の推進」を掲げるとともに、プロジェクトベースの研究を行う「先端融合研究環」と、基幹となる研究を行う組織として「基幹研究推進組織」を整備し、学内研究シーズのマッチングにより新たな学術領域の開拓を推進する体制を構築することになりました。こうした社会の要請および大学の目標・計画に対応するために、社系府を改組し、その機能の一部を、「先端融合研究環」における人文・社会科学系融合研究プロジェクトおよび文理融合研究プロジェクトとして推進するとともに、基幹研究推進組織の一つとして、社系府の大部分を継承・発展させて、センターが設置されたのです。センターは、社系府で行われてきた分野横断研究を継承し、平成28年度に設置された科学技術イノベーション研究科をはじめとする学内諸研究組織とも連携して、社会システムイノベーションを通じて社会課題の解決に貢献する文理融合研究を推進していくための組織となりました。このように、社会科学系を軸として、自然科学を取り入れた新しい学際的研究の仕組みが形成されることで、「理系的社会科学」のプロトタイプが示され、将来的には教育にも展開することが可能となっています。 ところで、近年低迷するわが国の国際競争力を高めるためには、イノベーションの創出が不可欠であり、国の提言等においても「日本を世界で最もイノベーションに適した国に創り上げる」としています。従来、わが国では科学技術イノベーションが重視されてきましたが、それらが社会問題を解決する効果的なものとなり、社会に受容されるためには社会システムをイノベーション創出型へと革新する必要があります。すなわち、社会を「社会制度」「科学技術」「市場」の3層から構成されるシステムと捉え、その全体を研究対象とし、かつ、「アントレプレナーシップ」によってこの3層を結びつけ、新規事業の創造を含めた社会実装により社会問題の解決を目指す必要があります。そのために、本センターを設置し、先端的な実証研究によって問題を分析して社会問題の解決を目指しつつ、その一般化・理論化を図る手法(application-based theory generation)を採用して、社会に貢献しつつ学問的にも世界最高水準の社会システムイノベーションの総合的研究拠点を形成するとともに、社会システムイノベーションの専門家たる若手研究者を育成します。 本センターは、環境・資源、医療・福祉、金融・ITという、日本が重大な問題を抱える3つの分野において具体的な社会システムイノベーションを提案する部門と、分野横断的に市場、社会制度およびアントレプレナーシップにおける社会システムイノベーションの研究を行う3部門の計6部門をもって発足しています。すなわち、平成28年度には、環境・資源システムイノベーション部門、医療・福祉システムイノベーション部門、金融・ITシステムイノベーション部門の特定の分野に関する3部門と、市場研究部門、社会制度研究部門、アントレプレナーシップ研究部門の分野横断的な3部門の計6部門を設置しました。本センターは、この6部門のもとに多数の研究プロジェクトを置いており、これらプロジェクトには、学内研究者116名、学外(国内)研究機関等55、学外(国外)研究機関等30が参加しています。 センターには、専任教員が5名います。センター長1名(筆者)、副センター長4名(梶原武久教授、金京拓司教授、松永宣明教授、家森信善教授)です。また、特命教授・准教授として、特命教授3名(大塚啓二郎教授、西村和雄教授、根岸哲教授)、特命准教授2名(Gustavo Tanaka准教授、八木迪幸准教授)が本センターに所属しています。平成28年度内に卓越研究員(特命助教)1名を採用する予定であり、選考をすすめています。さらに、平成29年4月には特命教授1名が新たに加わる予定です。また、前社系府長であり、センターの構想の中心を担った柳川隆教授は、「先端融合研究環」の副環長として人文・社会科学系融合研究プロジェクトを推進するとともに、センターに運営委員として参加されています。 本センターの6つの部門を具体的に見ていきましょう。①環境・資源システムイノベーション部門では、グローバルな低環境負荷型サプライチェーンを実現する研究と社会実装、および環境負荷が低く、経済効率性の高い環境・資源システムの構築に関する研究を行います。②医療・福祉システムイノベーション部門では、医療材料事業インキュベーションや病院マネジメント高度情報化に関する研究、および医療資源の消費実態や医療機関の努力を反映する医療保険制度改革に関する研究を行います。③金融・ITシステムイノベーション部門では、IT活用による金融決済や中小企業金融の高度化に関する研究、およびIT化の進展にともなう社会・金融システムの制度設計に関する研究を行います。④市場研究部門では、個別分野の社会・経済問題に即して、市場構造を分析しイノベーションの可能性を研究するとともに、一般性のある市場の分析・理論化を行います。⑤社会制度研究部門では、個別分野のイノベーション課題に即して社会制度の革新を研究するとともに、社会システム全体を包括する観点(例えばリスク論)から、各個別分野の関係と一般性の分析・理論化を行います。⑥アントレプレナーシップ研究部門では、イノベーション創出に役立てるための事業戦略・財務戦略・知財戦略に関する研究、および社会制度と科学技術と市場の間のコーディネーションに関する研究を行います。プロジェクトの詳細は、センターのウェブサイト<http://cfssi.kobe-u.ac.jp>に掲載していますので、ぜひご覧下さい。 さらに、平成29年度には、新たに農業システムイノベーション部門を設置するとともに、医療・福祉システムイノベーション部門で「保健医療(福祉)のためのICTシステム研究」、社会制度研究部門で「社会制度改革推進プラットフォームの構築」、アントレプレナーシップ研究部門で「地域創生のための科学技術アントレプレナーシップ研究」を計画するなど6部門の研究プロジェクトを拡充することを計画しています。 また、平成28年4月には、Springer社との間で、Kobe University Social Science Research Seriesを出版する契約を結びました。ここでは、英語による研究成果の発信を促進するため、本シリーズにて年間5冊程度の英文書籍を刊行します。これにより、世界的な一流出版社を通じて英語により継続的に研究成果を公表できる環境が整いました。 センターは、社会システムイノベーション研究における具体的な活動目標として、①積極的に国際共同研究を行うこと、②世界的に価値あるジャーナルに論文を発表すること、③社会実装や政策提言につながる実践的な研究をすること、④それらの研究成果をシンポジウム等で広く社会還元することを掲げています。これらの目標については、目標となる指標が具体的に設定されており、第3期中期目標期間(平成28年度から平成33年度までの6年間)において、①については国際共著論文数60、②についてはWeb of Scienceに収録雑誌掲載論文90、③については社会システムイノベーションの政策提言数・社会実装数100、④については、社会システムイノベーションに係る文理融合・分野横断研究の成果報告のためのシンポジウム等開催件数90としています。そして、将来的には、他の多様な社会問題にも対応できる弾力的な融合研究拠点となることを目指します。 本センターでは、論文作成のみならず、それらの成果をシンポジウム・研究会等を通じて広く情報発信し、現実の社会システムのイノベーションのための社会提言・社会実装を行っていきたいと考えております。すでに皆様からいろいろ支援いただいておりますことに感謝しつつ、今後とも引き続きご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます。
泉水文雄 1958年生まれ。1985年京都大学大学院法学研究科博士後期課程中退(法学修士)、京都産業大学専任講師・助教授、大阪市立大学助教授を経て、1998年4月神戸大学法学部教授、1999年4月大学院法学研究科教授、2016年4月社会システムイノベーションセンター長。
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