凌霜第413号 2017年04月11日

目次

◆巻頭エッセー   神戸大学とEU             吉 井 昌 彦 

◆母校通信                         藤 田 誠 一 

◆六甲台だより                       行 澤 一 人 

◆経済経営研究所創立100周年記念事業募金ご協力のお願い  上 東 貴 志 

◆本部事務局だより               一般社団法人 凌霜会事務局 

 ツイッターを開始しました/口座自動引き落とし、終身会費など 便利な会費支払い方法のお知らせ/ご芳志寄附者ご芳名/事務局 への寄附者ご芳名/米寿のお祝い

◆(公財)六甲台後援会だより(48)   (公財)神戸大学六甲台後援会事務局 

◆表紙のことば 世界自然遺産の島 屋久島          竹 内 淳一郎 

◆大学文書史料室から(22)                 野 邑 理栄子 

◆凌霜俳壇  古典和歌      

◆学園の窓               ハワイでの在外研究 衣 笠 智 子

         占い師のせいで学者になってしまった人の話 森   直 哉 

                    アメリカでの2年間 藤 村 直 史 

                   在外研究中のことなど 榎 本 正 博 

◆六甲台就職相談センター NOW ―ご父兄とともに―    浅 田 恭 正 

◆学生の活動から 第66回三商ゼミ発表会           深 見 佳 保 

◆第2回関西凌霜社外役員懇談会開催             辻 本 健 二 

◆「凌霜OBOG・学生懇談会in関西2017」

 に向けて、事前打合せ会&交流会を開催           岡 部 幸 夫 

◆第1回関西凌霜経理財務担当役員・管理職懇談会開催     辻 本 健 二 

◆リレー・ 随想ひろば    グローバリゼーションの終焉  川 口 浩 司       

               公務員弁護士として      松 田 誠 司 

◆追悼         三宅繁夫大兄(予科9回生)を送る  市 島 榮 二 

             谷口純一さん(昭34経院)を送る  岡 村 二 郎 

◆編集後記                         行 澤 一 人 

<巻頭エッセー>

神戸大学とEU      副学長・経済学研究科教授 吉  井  昌  彦 

 大学教育研究のグローバル化が必要だと言われていることは皆さんもご承知のことと思います。神戸大学もグローバル化を積極的に進めてきましたが、神戸大学の特徴として、ヨーロッパ・EUの大学・機関との連携が強いことがあげられます。例えば、2016年11月現在、313の大学間・学部間協定が締結されていますが、そのうち129がヨーロッパの大学・機関とのものであり、アジアの大学・機関との協定数120を上回っています。

 なぜ神戸大学でヨーロッパの大学・機関との交流が盛んなのでしょうか。旧教養の流れを汲み、独語や仏語など語学の教員が多い国際文化学部(4月より発達科学部と合同し、国際人間科学部となります)が学生を海外に派遣することをセールスポイントとしてきたことが一つの理由です。しかし、ヨーロッパ経済論のため着任した久保広正教授(現摂南大学)の尽力により、2005年4月、EUインスティテュート・イン・ジャパン(EUIJ)関西が設置されたことが、社会科学系を含めて神戸大学全体としてヨーロッパの大学・機関との連携を深める大きな契機となりました。

 EUIJ関西は、欧州委員会の資金援助を受け、コンソーシアム・メンバーである関西学院大学、大阪大学と共に、EUに関する教育、学術研究、広報活動の推進や情報発信を通して、日EU関係の強化に貢献してきました。私自身も、研究対象である中東欧諸国が2000年代にEU加盟を果たしたことから、EUIJ関西の活動にどっぷりと浸かり、2011年4月から13年10月まで代表を務めました(現在は副代表)。

 EUIJ関西の設立が触媒となって、様々な変化が起きました。まず、EUから数多くの著名人が神戸大学を訪問するようになりました。代表的な方としては、ジョゼ・マヌエル・ドゥラン・バローゾ欧州委員会委員長(当時)が2006年に、ヘルマン・ヴァン・ロンプイ欧州理事会議長(EU大統領、当時)が2009年に神戸大学を訪問し、学生への特別講義を行いました。ヴァン・ロンプイ氏には、現在、神戸大学のアドバイザリーボード・メンバーに就いて頂き、特に国際交流活動に貴重な御意見を頂戴しています。

 もう一点は、2010年に神戸大学ブリュッセルオフィス(KUBEC)を設置しました。KUBECは、EUの首都であるブリュッセルにおける日本の大学で初めての拠点です。このKUBECを中心に、様々なシンポジウム、ワークショップをブリュッセルで開催しています。

 また、2015年には、欧州における第二の拠点として、ポーランド・クラクフ市にあるヤゲヴォ大学にポーランド拠点を設置しました。ヤゲヴォ大学は、1364年に設立された、最も古い歴史を持つ大学の一つであり、コペルニクス、ヨハネ・パウロ二世など多数の著名人を輩出したことでも知られています。幸いにも、私は両拠点の開設記念シンポジウムに参加することができました。KUBEC開設シンポジウムでは、EU大統領としての多忙な時間を割いてヴァン・ロンプイ氏が挨拶をされたこと、ポーランド拠点開設シンポジウムでは、会場であるコレギウム・ノーヴム・ホールの立派さに感嘆したこと、が特に記憶に残っています。

 この間、神戸大学のヨーロッパの大学・機関との教育・研究協力が様々強化されてきました。
 第一に、大学間・部局間協定の数が、2009年の54協定から先ほどあげた129協定にまで倍増しました。このため、各学部・研究科は英語による講義数を増やしてきており、キャンパスでヨーロッパからの留学生を見かけることも増えてきました。私自身、ヨーロッパの大学・機関との協定締結、学生交換、シンポジウム開催のため、毎年何度も日本とヨーロッパとの間を往復してきました。
 第二に、神戸大学EUエキスパート人材養成プログラム(KUPES)、日・EU間学際的先端教育プログラム(EU―JAMM)という先端的教育プログラムが設けられました。前者は、EU圏の大学への交換留学を行いながら、日本とEUで二つの修士(ダブルディグリー)取得を目的とした、学部2年生から大学院博士前期課程までの一貫プログラムであり、後者は、神戸大学が代表校となり、九州大学・大阪大学・奈良女子大学とコンソーシアムを結成し、EU側のルーヴェン大学をはじめとする6大学と連携して、博士前期課程の院生がダブルディグリー取得することを目指すプログラムです。
 第三に、研究面でもヨーロッパの大学・研究機関との協力が進んでいます。ヨーロッパとの国際共同研究数も、神戸大学全体で2011年の51件から15年には177件に増加し、アジア、北米との国際共同研究数を大きく上回っています。社系では、経済学研究科が、世界の経済系シンクタンクのランキング(北米を除く)で2位のブリューゲルとの国際シンポジウムを2013年以来開催しており、その成果をブリューゲルのブループリントにまとめるなど、情報発信に努めています。

 ヨーロッパの大学との交流でユニット交流システムという興味深い試みが始まっています。2016年度、5月に7名、10・11月に計10名の本学教員がヤゲヴォ大学を訪問し、「現代日本におけるグローバル・イシュー」、「日本法コースⅠ・Ⅱ」をテーマとした出張講義を行いました(詳しくは本誌前412号、井上典之理事の凌霜ゼミナールをご覧下さい)。

 すべてを挙げることはとてもできませんが、神戸大学は、EUIJ関西の設置を契機としてヨーロッパの大学・研究機関との連携を強化してきたわけですが、その背景には、ヨーロッパの大学でも教育・研究のグローバル化が進められていることがあります。

 EUでは、域内の学生・教員の流動性を高めるため、エラスムス計画が進められるとともに、これを可能とするため、ボローニャ・プロセスにより高等教育における学位認定の質と水準の収斂化が進められてきました。我々が、学生をEUの大学へ派遣する場合、ヨーロッパ単位互換制度(ECTS)を利用することにより、単位互換を容易に行うことができます。また、英語による講義の提供も増加してきています。

 そして、この学生・教員の流動性を世界的なものとするためエラスムス・ムンドゥス(現在はエラスムス・プラスへ統合)が実施されています。申請はEU圏の大学が行いますが、神戸大学はパートナー校として声をかけられることが多く、全学ではヤゲヴォ大学が、社会科学系では経済学研究科がルーマニアのバベシュ・ボヨイ大学とポーランドのグダニスク大学それぞれと申請したエラスムス・プラスが採択され、学生・教員の交流が始められています。私自身は、昨年、今年とバベシュ・ボヨイ大学へ行き、日本経済についての講義を行いました。昨年は、同大学に留学中であった学生を寿司屋(日本人が経営しているまっとうな寿司屋です)に招待し、困ったことがないかなどを聞くことができました。 神戸大学のヨーロッパの大学との連携強化の契機となったEUIJ関西ですが、残念ながら、昨年3月にEUからの資金援助が終了しました。EUの厳しい財政状況から、EUIJを含む世界中のEUセンターへの資金援助停止の決定を受けたものです。このため、神戸大学は新たな支援申請を行い、二つのプロジェクトに対して資金を獲得することができました。一つはジャンモネCOEで、主としてEUIJ関西の研究とKUPESなどの教育プログラムを運営しています。もう一つは、ジャンモネ・チェアで、これは私への資金援助で、主としてEUIJ関西の教育活動(EU修了証プログラム)を継続実施しています。ジャンモネは、第二次大戦後、独仏和解のため石炭・鉄鋼の共同管理を提案したことにより「欧州統合の父」と呼ばれました。そして、ジャンモネ・チェアが採択されたのは日本で6人目、神戸大学では久保教授に続き、2人目となります。
 このように、神戸大学は、ヨーロッパ・EUの大学・機関との交流を活発に行ってきました。とは言え、アジアやアメリカ、オセアニアの大学・機関との交流も積極的に進めています。神戸大学の国際交流に注目していて下さい。

 吉井昌彦1958年生まれ。1985年神戸大学大学院経済学研究科博士後期課程中退(博士(経済学))。神戸大学経済学部助手・講師・助教授を経て、現在、経済学研究科教授。2012年11月〜2014年11月、経済学研究科長。2016年1月より副学長(人事・企画評価担当)。

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