凌霜第421号 2019年04月12日

表紙絵・スペイン・トレドにて(HP用).jpg  凌霜四二一号目次           

表紙絵 昭34経 本 間 健 一

カット 昭34経 松 村 琭 郎

◆学長再任に当たって      武 田   廣 

目 次       

◆母校通信      藤 田 誠 一 

◆六甲台だより    行 澤 一 人 

◆本部事務局だより          一般社団法人凌霜会事務局 

 2019年度正会員会費納入のお願い/ツイッター、フェイスブック

 などSNS、メールマガジン活用を/ご芳志寄附者ご芳名/事務局へ

 の寄附者ご芳名/米寿のお祝い

◆投稿規定改定のお願い  「凌霜」誌編集委員会・凌霜会事務局 

◆(公財)六甲台後援会だより(56)      (公財)神戸大学六甲台後援会事務局 

◆大学文書史料室から(30)        野 邑 理栄子 

◆凌霜俳壇  古典和歌  

◆ラグビーワールドカップ2019™日本大会 神戸で4試合開催

  ◆学園の窓    

     病院の経営人材養成に向けた新たな取り組み            松 尾 貴 巳 

     法学の国際性            行 岡 睦 彦 

     経済史とロンドンと私          橋 野 知 子 

     我々の価値評価は信用できるのか?            瀋   俊 毅 

◆六甲余滴 セカンド・キャリア―教鞭を執る実務家として        大 住 敏 之 

◆表紙のことば スペイン・トレドにて  本 間 健 一 

◆六甲台ゼミ紹介 経済学部・羽森茂之ゼミ        久 米 隆 大 

◆学生の活動から 第68回三商ゼミ発表会を終えて        木 村 英 幹 

◆六甲台就職相談センター NOW

 「感謝の気持ち」と「謙虚な心」      浅 田 恭 正 

◆クラス大会 凌霜43年会          

◆クラス大会予告 三四会            

◆クラス会 しんざん会、さんさん会、三四会、珊瑚会、イレブン会、  

     むしの会、双六会、神戸六七会、四四会、一休会、互礼会

◆支部通信 東京、名古屋、大阪、神戸、広島、熊本県、大分、デトロイト        

◆つどい 義凌会、新保ゼミ、合気道部養心会、ホッケー部東京OB会、            

     二水会、KUC囲碁クラブ、三菱電機凌霜会、水霜談話会、

     大阪凌霜短歌会、東京凌霜俳句会、大阪凌霜俳句会、

     凌霜川柳クラブ、神戸大学ニュースネット委員会OB会

◆ゴルフ会 芦屋凌霜KUC会、廣野如水凌霜会、垂水凌霜会、              

     花屋敷KUC会

◆物故会員      

◆国内支部連絡先              

◆編集後記      行 澤 一 人 

◆投稿規定

学長再任に当たって

神戸大学長 武  田     廣

 昨年11月19日に、学長選考会議から神戸大学長再任の決定通知をいただきました。2019年4月から2年の任期です。国立大学が法人化されてから15年が経過し、現在は第3期中期目標・中期計画(2016年〜2021年度)期間の中ほどになります。国立大学法人の運営を巡っては様々な検証、議論がなされていますが、とりわけ財政的な課題が最も厳しいと感じています。そのような状況の下でさらに2年間、神戸大学の舵取りを任されたことに対しては、非常に身の引き締まる思いです。以下の章で、国立大学法人神戸大学を巡る諸課題について述べるとともに、私の考え方を記したいと思います。

(1)運営費交付金の減少と質的変化

 平成16年度の国立大学法人化以降、法案成立時の国会付帯決議に反して、国からの財政支援である運営費交付金は減少の一途を辿ってきました。年率にして約1%です。運営費交付金は、国立大学にとって人件費を含む教育・研究の基盤的経費ですので、その経常的減少はおおきな痛手です。研究に関しては、科学研究費や企業との共同研究という形の外部資金獲得で何とか維持できています。しかし、外部資金の獲得のための申請書・報告書の作成に多くの時間が取られるという弊害も産まれています。また、外部資金の獲得しやすい分野とそうでない分野との格差も拡がっているのが現実です。

 若手教員の安定的ポストの減少も、運営費交付金減少に連動しています。人件費の減少に対応するため、定年退職後のポスト不補充という対策がとられ、結果として新規教員募集が全国の大学で減ったのです。もちろん、獲得した外部資金を使ってポスドクなどの若手研究者を雇用することも可能ですが、研究プロジェクトの継続期間内という制限のついた有期契約になり雇用が不安定となります。こうして若手研究者育成のメカニズムが破綻しつつあることから大学院進学者の減少も起こり、将来の科学技術立国の基盤が揺らいでいると言っても過言ではありません。

 この2、3年は、全体の運営費交付金総額は下げ止まっています。しかし、国立大学の機能強化という名目で、総額約100億円の運営費交付金がそれぞれの大学の予算規模に応じて吸い上げられ、各大学の提案した機能強化プロジェクトの評価に応じた再配分が行われています。つまり、別の形で基盤的経費から競争的経費への移行は続いているのです。更に、昨年の内閣府主導の行政レビューで、国立大学の運営費交付金に新たな打撃が加えられました。年100億円の再配分では「生温い」として、運営費交付金全体の約10%にあたる1、000億円を評価に基づく再配分の対象にするよう勧告されたのです。これには、国立大学だけでなく所管する文科省も抵抗したのですが、結局、内閣府・財務省に押し切られてしまいました。その結果、平成31年度の予算配分では、外部資金の獲得額、論文被引用数や若手教員比率などの大学共通の指標によって700億円が、従来の機能強化プロジェクトによる評価で300億円が、それぞれ再配分されることになったのです。今回は激変緩和措置も取られましたが、将来的には傾斜配分の割合を増やすという話もあり、基盤的な人件費、施設運営費などに致命的な影響が出ることが懸念されます。

(2)施設整備費の構造的問題点

 法人化以降、運営費交付金の減少が問題視されていますが、建物や施設の新営・改修等の予算も右肩下がりが続いています。もともと国立大学には減価償却という概念は無きに等しく、老朽化した建物はその都度、概算要求をして予算獲得をしてきました。従って、大学は建物更新・大規模修繕のための蓄えはできておらず、ほとんどの大学で建物の老朽化が進んでいます。神戸大学の場合、阪神淡路大震災で被災したこともあり、耐震改修の予算で比較的大規模な修繕が行われましたが、それでもインフラを含め各キャンパスで老朽化が進んでいます。国立大学協会としても一致して施設整備費の増加を要求してきましたが、財政健全化を口実に、ほとんどゼロ査定が続いてきました。この問題は、法人化の際の制度設計の不備と言わざるを得ません。ところが、2019年度予算では「国土強靭化」という掛け声のもと国立大学関連だけで808億円もの臨時的な措置がなされました。消費税増税の補填措置としての公共投資の意味合いが強い政策と考えられます。神戸大学では、練習船深江丸の代替船、海洋底探査の先端観測機器、保健学系及び社会科学系の総合研究棟改修、学内のインフラ整備に予算が付き、概算要求に対してほぼ満額回答という大盤振る舞いです。10年分の施設予算が一度についた感じで、学長としては、嬉しい反面、国の急変する施策に疑問も感じています。

(3)業績評価と年俸制

 法人化前の国立大学の教職員は、その定員も給与も国家公務員として管理されてきました。法人化後は、原則的には法人の裁量によって人事給与の仕組みを変えることも可能でしたが、多くの大学では法人化前の制度を踏襲してきました。退職金についても減価償却同様、法人で予め積み立てるのでは無く運営費交付金の特殊要因という形で別に確保されてきました。しかし、国立大学の教員の流動性が低いこと、また、特殊要因の中で退職金の占める割合が大きいことを財務省が問題視し、2015年1月から国立大学法人の教員に対して年俸制が導入されました。全国立大学教員のうち約1万人が目標で、退職金を前倒しにする形で、年毎の業績に応じて年俸が決められることになりました。神戸大学の場合、教員の15%弱が年俸制適用となりました。もちろん、外部資金等で雇用される特命教員はもとから年俸制で採用されています。

 退職金を前倒しで支給されるわけですから、必然的に月割の給与は増加し、その分税金・社会保険料等も増加し、不利益変更にならないように国・大学法人から年俸制教員に対して補填措置が行われました。年俸制への移行は本人の判断ですので、業績評価に自信のある教員は次々と年俸制へ移行します。また、年俸制を推進するため、国立大学法人の評価指標の一つに年俸制教員比率が入れられたことから、いくつかの大学では目標を大幅に上回る年俸制教員が誕生しました。その結果、補填措置のための財源が枯渇していくという大問題が生じてきました。国からの補填金額は減少し、大学法人が身銭を切って対応せざるを得ない状況になります。そこで、財務省と文科省とで協議が行われ、2019年度からは「新年俸制」が導入されることになっています。

 「新年俸制」のもとでは、月給制と同じく退職時の一時金は確保されますが、給与年額は業績評価を反映させる、メリハリの利いた制度が考えられています。文科省は今後この制度を広く国立大学に適用することを企図していますが、問題は公平・適正な教員業績評価を誰がどのように行うかです。神戸大学では、数年前から全学的に教員の業績評価が行われています。教育、研究、社会貢献、管理運営などの項目ごとに、自己申告したものを各部局で評価した上で全学的にまとめています。予想されたように、理系の場合は、比較的評価指標が定めやすいですが、人文・社会系の場合は評価指標に何を使うかが大問題です。また、業績を給与に反映させるといっても人件費予算に限りがあるので、ある程度の相対評価を持ち込まざるを得ず「こんなに頑張っているのに、給料が据え置きとは」といった不満が生じることも想定されます。様々な問題点を抱えながら人事給与の制度設計を進める作業が行われています。

(4)高等教育無償化

 今年10月に予定されている消費税増税分を財源に、2020年度からの高等教育無償化が検討されています。住民税非課税世帯の優秀な学生に、返還不要な奨学金を支給するとともに、入学金・授業料を無償にするという施策です。支給対象の学生には、入学後の勉学のチェックも行われ、成績不振の場合には援助がストップされます。また、支給の対象となる大学にも様々な要件が求められています。教育・財務内容の公開、学生定員充足率などの要件は、国公私立に共通の要件として納得できるものです。しかし、実務家教員(産業界の経験のある教員)などの講義が全体の10%以上であること、民間出身者などの外部理事を複数配置することなどは、高等教育無償化とどういう関係があるのか私には理解できません。国費を投入して無償化を推進するのだから、大学内に籠らないで広く社会に門戸を開くべきだとの論理でしょうが、すこし短絡過ぎる措置のように考えられます。

 2020年度入学の学生が大学選びを行う際に参考にできるようにするため、対象大学の認定は2019年度早い時期に行う必要があり、神戸大学でもシラバスの作成などで準備を始めています。

(5)神戸大学の改革

 上記のような課題を抱え、国立大学法人は教育・研究・運営のあらゆる面で更なる改革を迫られています。私自身も、再任の2年間は仕上げの時期であるといった甘いものではなく、大学の生き残りをかけた厳しいものであると自覚しております。凌霜会の皆様方には、母校の置かれている厳しい状況をご理解いただき、今後とも暖かいご支援をお願いする次第です。