凌霜第384号 2010年01月31日

ryoso384.jpg

凌霜第384号目次

◆ 巻頭エッセー 
   金融危機の後               地 主 敏 樹
◆ 母校通信                   田 中 康 秀
◆ 六甲台だより                吉 井 昌 彦
◆ 理事長からのメッセージ6
 公益法人改革対応・収支改善対策
      委員会の報告書を受領して    高 崎 正 弘
◆ 2009年度日本応用経済学会秋季大会
              神戸大学で開催   中 村   保
◆ 学園の窓
    初心者のキモチ             中 川 丈 久
   原稿が本になるまで            芦 谷 政 浩
   社会人学生に接して            梶 原 武 久
   なるべく塩屋生活              斉 藤 善 久
◆ リレー・随想ひろば
   三歳池潜                   冨 田 利 和
   市場原理主義は悪か            森 本 恭 平
   新しい風とテニス愛             吉 岡 伸 敏
   社会人3年生として             兼 光 里 江
   司法修習生考試(二回試験)について    吉 田   忍
◆ 神戸大学・中国地質大学(武漢)カンリガルポ
山群合同学術登山隊の遠征報告        山 形 裕 士
◆ 本と凌霜人
   「国際取引法契約ルールを求めて」     齋 籐   彰
   「ビジネスマンのためのクオリティー・リーディング
     ―読書の質が仕事と人生を変える―」  柴 谷   元

凌霜俳壇  凌霜歌壇

<抜粋記事>
◆ 金融危機の後
経済学研究科教授 地 主 敏 樹

夏の終わりにワシントンを訪問した。補正予算を使った政府の金融危機研究プロジェクトの調査である。いつもと違って、アポやロジもアレンジしてもらえるので、非常に助かった。大学では、個人の研究調査に対して、そうしたバックアップは一切してもらえない。調査結果は公表されるまでお待ちいただきたいが、おおまかな印象として「アメリカの金融制度改革は大したものにはならないだろう」と感じたことだけは報告しておきたい。
アメリカの金融機関を見渡すと、コミュニティー・バンクなど中小は相当数破綻しつつあるが、大手の経営はかなり安定化してきているのが現状である。ワシントンでは、ゴールドマン・サックスの高額ボーナス再開が話題となっていた。預金保険公社の保証のおかげで低利で借りた資金を使っての儲けである。資本増強に使うのが筋だと思われるが、商業銀行並みの資本を積むのに猶予を与えられている間は、ボーナスに使おうという見上げた根性である。
中核さえ落ち着いてしまえば、「根本的な」金融制度改革など、無用の長物であろう。アメリカ経済にとって「虎の子」である金融産業の国際競争力を弱めてしまいかねないからだ。オバマ大統領にとっては医療改革こそ取り組みたかった大課題であり、政権に入った経済・金融専門家たちにとっては「拙速」で大幅な金融改革(規制強化)を避けたかっただろうから、前者を優先して後者を先送りすることで意見は一致し、時間稼ぎに成功したといえるのではないだろうか。オバマ政権の経済チームの主力(ガイトナーやサマーズ)は、クリントン政権において金融自由化を実施した人々なのである。その自由化において、監督体制の強化・整備が行われなかったことも、今回の危機を招いた重要な一因であると考えられている。
オバマ政権にとって国内政策における最優先課題となった医療改革をみていると、クリントン政権の失敗に学んだことがよく分かる。ホワイトハウス中心で法案を作成してトップダウンで議会に持ち込むのではなく、「国民皆保険+医療費抑制」という大目標を掲げるだけにして、後は議会内部で法案を作成させたのである。アメリカは議会すらも分権的であり、上下両院の関連する複数の委員会でそれぞれに法案が通過しなければならない。こうして、いくつもの委員会で個々に妥協点が探られて、法案が作成されることとなった。こうして、(予定通りに)時間がかかる間に大手金融機関の経営は落ち着き、大目標の半分ぐらいは実現しそうな医療改革法案が下院を通過するところまで漕ぎ着けたのである(11月初旬)。まだ、上院通過にもその後の両院法案の擦り合わせにも時間がかかる見込みだし、医療費抑制の方は望み薄であるが、オバマは国民皆保険へ向けて大きな一歩を実現した大統領になるのだろう。
金融制度改革は、医療改革の後に進められることとなる。こちらで実現されるだろうと目される点をみてみよう。第1は、経営陣に対する報酬規制である。短期的利潤に応じて法外なボーナスを受け取れるので、ハイリスク・ハイリターンな経営を行うようになったという指摘がある。報酬を長期的利潤に関連付けないと経営健全性が低いと査定するようにすれば、報酬体系は変更されるだろう。第2は、消費者金融保護庁の新設である。サブプライム住宅ローンには返済能力のない借り手に十分な説明をせずに貸し込んだ部分(「略奪的貸出」)が相当あるのではないかという批判に応えて、借り手であった消費者を守ろうというのである。第3は、金融派生商品(デリバティブ)の取引を取引所に集中させることで、決済に問題が生じ易く実態が掴み難い「相対取引」を減らそうというものである。巨額の「信用デリバティブ」取引で世界最大の保険(持株)会社であるAIGが破綻に瀕して救済されたことは記憶に新しい。
これらは、それぞれに「それなりの」効果をもつ改革であろうし、目に見えやすく、世論にも歓迎されるだろう。金融機関支援に対する国民の反感を鎮めるには必要不可欠の施策でもあろう。しかし、極めて限定的な改革でしかないとも評価できよう。金融機関(特に投資銀行)の報酬体系は近年に大きく変わったのだろうか。ルールを作るだけの消費者金融保護庁をつくっても、監督機関が弱体なままで実効性はどうだろうか。金融派生商品の取引所集中も、対象となる「標準化」された金融派生商品の範囲と、その義務から免除される中小企業の範囲などの線引き次第では、骨抜きになりかねない。なんといっても、先進国中最悪と酷評される金融監督体制には手を付けずに、情報共有のための委員会が設定されるだけというテイタラクなのである。銀行と証券と保険と金融会社と、各業態の監督機関がバラバラのままで良いと考える人は少数だろう。
調査で様々な所へ面談に行くと、対応が多様で興味深い。公的な機関に正式に依頼して訪問すると、予想外に多くの人が出てきてこちらが恐縮してしまったりする。いろんな質問に対する専門家を揃えてくれた点では有難いのだが、要らない事を言わないための相互チェックをしているだけではないかとも思えたりする。社会主義圏のように「党員」が出てくるわけではないが、似たようなものと言えるかもしれない。さらに、先方から、日本の経験に対する質問が出てくることも多く、下手をするとどちらが質問される側か分からなくなってしまう。ただし、個人的な人脈でアポを取ると、1対1で極めてフランクに話してくれることもある。両方の種類の面談をバランス良くこなすことが大事なようだ。
一般のシンクタンクでも、やはり1対1の場合はまともなことが多い。個人の意見をストレートに話してくれるのである。様々な意見をもった人々と会えるので、貴重であった。しかし、複数で待ち構えている場合は、公的機関以上に要注意である。今回も1件、貴重な経験をした。一応中立的とされているシンクタンクで、中堅のエコノミストと会えることになっていたのだが、複数になる可能性があると伝えられていた。相手に思惑があってのことだと判明した。
高名なシニアのエコノミストが同席してきて、最初の発言が「君の(危機の原因に関する)リストには、(アメリカにとっての)海外要因がぬけているじゃないか」である。「あれっ?」と思っていたら、次いで「今回のバブル生成に関して、アメリカは大きな政策ミスを犯していない」とまで言い出した。私の質問状のリストには、クリントン政権期の金融自由化で州際出店規制と業際規制を撤廃したのに、規制・監督機関の統合が行われずバラバラのままであったことが、バブル生成の原因候補として上げてあった。さらに、2003~06年にかけての低金利政策とその緩慢な解除も、原因候補としていたのである。私も思わず熱が入って反駁する内に、1時間の面談予定が2時間にまで及んでしまった。
後で分かったことだが、彼は中央銀行に長年勤めた後、クリントン政権の財務省に参画しており、私が批判していた金融自由化に関わっていたらしい(面談時点で私は、中央銀行のスタッフ・エコノミストとしてしか認識していなかった)。このシンクタンクで相手をしてくれた面々は、言わば「彼のチーム」であった。彼らは日本政府の派遣した調査チームに対して、クリントン政権や中央銀行の政策を弁護して、あわよくば(日本を含む)海外要因がバブル生成の主因だと主張して説得しようと考えていたのである。予備知識や下調べが十分でない人が「チーム」に囲まれて迫られると、「納得」してしまいかねないだろう(ままあることだと、帰国後に聞いた)。アメリカには左から右までシンクタンクが数多あって百家争鳴であり、こうしたベテランがうようよしているのだから、危険なことであると感じた次第であった。「現場に行けばいい」というものでもないのである。
筆者略歴
1982年神戸大学経済学部卒業。ハーバード大学Ph.D。神戸大学経済学部助手、講師、助教授を経て現職。著書に「アメリカの金融政策―金融危機対応からニュー・エコノミーへ―」東洋経済新報社、2006年。「アメリカ経済論」(村山裕三と共編著)ミネルバ書房、2004年。


◆理事長からのメッセージ 6
  公益法人改革対応・収支改善対策委員会の
     報告書を受領して

            社団法人凌霜会理事長 高  正 弘

厳しい寒さの中にも春近しを感じさせる季節となってまいりましたが、凌霜会会員の皆様にはお元気にお過ごしのことと存じます。
さて、平成20年の春以降、凌霜会の抱える課題とその対応策について本誌はじめその他の機会を捉えてご報告してまいりましたが、前々回の382号でお約束しておりました委員会の報告書がまとまりましたので、これをベースに、公益法人改革への凌霜会としての対応案の大枠を報告いたします。
まず、その内容に入るに先立って、ご多忙の中、凌霜会の将来に思いを馳せながら懸命にご尽力いただいた委員の方々に、会員の皆様共々心よりお礼を申し上げたいと思います。今回の対応の如何が今後の凌霜会の盛衰を決めると言っても決して過言ではなく、それだけに、平成20年11月にスタートした委員会はこの1年間に10数回に及ぶ会合を重ねて、今回の報告書をまとめていただいたものであります。私自身、今回の委員会の活動は、凌霜会の第2次創立に向けての作業で、その歴史に長く残るものと理解しています。
 報告書を読んで全体を通した感想は、今後更に議論を詰めるべき課題はいくつか残っていますが、法律改正への対応方針やそれを踏まえての凌霜会が解決すべき課題などについては的確にご指摘いただいたと思っています。以下、報告書の主旨に沿って説明いたします。

⒈公益法人制度改革の概要と凌霜会の対応
・従来の公益法人制度は、明治29年の民法制定により創設され、その後今日まで抜本的に改革されることなく続いてきたもので、今回の改正は百年に一度の改革と言える。その背景には、天下り問題や公益法人の不適切な運営の発覚などもあるが、その理念とするところは「民が担う公益の増進」であり、今後のわが国のありようを大きく変える契機の一つになるものである。
・新法の下では、従来の公益法人は新法が施行された平成20年12月以降5年以内に、新法の定める新しい法人形態に移行するか、法人を解散して一般事業会社となり他の法人類型(例えば営利法人やNPO)を目指すことになる。
・新法で創設された法人形態としては、公益社団法人、公益財団法人、一般社団法人、一般財団法人があるが、凌霜会の性格上、従来同様の公益法人型を志向することは難しく、結論として言えば、一般社団法人への移行がその選択肢となる。公益法人認定取得を諦めざるを得ない最大の理由は、公益認定取得には、少なくとも公益性事業費比率が50%以上必要であるのに対して、会誌の発行など会員の連携・親睦を主たる目的とする凌霜会の同比率は10数%に留まっていることである。
・一般社団法人移行に当たっても、法の規定に従って移行認可申請を行い、その認可を得なければならず、それに向けた凌霜会の諸々の対応・環境整備が求められるが、大正13年以来の歴史を有し今後も従来にも増して活動を期待される凌霜会が、法人格を失うようなことは避けなければならない。加えて、会費収入は非課税、狭義の収益事業のみが課税対象となる「非営利一般社団法人」の認可取得が必須である。
・新制度においては、従来のような主務官庁の指導・監督による運営ではなく、法の精神に則った法人の自主的な運営とその裏返しとしてのガバナンス強化が要求されており、凌霜会の組織ならびにその運営手法も大きく変える必要がある。

⒉ 対応策(案)の要点
①定款変更
・名称は「一般社団法人凌霜会」とする。
・組織上は、株式会社の株主総会に相当する社員(正会員)総会が、ガバナンス機能を担う最高機関であるが、2万人に達する正会員を対象として運営することは非現実的で、従来の評議員会に代えて代議員制を採用し、この代議員を法律上の社員と位置付ける。代議員の選任は正会員によるものとされており、その選出方法についても実効性のあるものを考えなければならない。代議員立候補の有資格者及びその選挙権を有する正会員は会費の納入を法律で義務づけられており、現在の正会員の内、代議員の被選挙権、選挙権の有資格者をどのような基準で線引きするかは今後の課題である。なお、代議員(社員)数は法律の趣旨に反しない範囲において総会の実効性を確保し得る規模に留め、結果として、現在の評議員200名~250名を大幅に下回る規模を想定している。
・社員(代議員)総会で選出される理事・監事が業務の執行・監督機関となり、理事数は現状比10~15名減の10~15名を、監事は2~5名を想定している。理事会は、従来書面による委任を可としていたが、新法の下では理事本人の過半数の出席が理事会の成立要件となっていることや、従来以上にきめ細かい実効性ある理事会運営が要求されることなどを考慮して絞り込んだものである。
②公益目的支出計画の作成
・移行認可申請に当たって定款の変更と並んで大事なポイントが、この支出計画の策定である。詳しい説明は紙面の関係で省略せざるを得ないが、要約すると、公益法人時代に蓄積した貸借対象表上の純資産相当額を公益目的財産として、移行認可申請時の計画(公益目的支出計画)に沿って、その残高がゼロになるまで公益目的事業に費消しなければならない。凌霜会最大の使命である同窓会関係活動には使用できない。
・凌霜会の同残高は現在約6千万円弱と推定され、これを長期にわたって公益目的事業で費消していくか、あるいは公益事業を目的とする他の公益法人や国もしくは地方公共団体に寄付するかなどの処理が必要である。長期間かけての費消の手間などを考慮すると、条件整備を前提に㈶六甲台後援会への寄付が有力な選択肢の一つとなる。
③期間収支の均衡達成
・以上①、②を展開する上での大きな課題は、現在の期間収支赤字体質からの脱却目途を早期につけることである。会費納入率の低下を主たる要因として、ここ数年毎期5百万円程度の赤字が続いており、この解消に向けての会員数及び会費納入率の向上が喫緊の課題となっている。
・過去の蓄積は公益目的事業以外に費消できないので現状のまま推移すれば毎年の赤字が累積していくことになり、凌霜会本来の事業の推進に支障をきたすことになるのは明らかであるばかりではなく、一般社団法人への移行認可の条件とされる「公益目的支出計画の安定的な実施」そのものに疑問符がつきかねない。
・委員会報告書に示された既存会員対策、準会員対策、会員範囲の拡大策等々の改善案を早期に具体化しなければならない。
・数ある課題の中で、この問題解決の目途が立たないと最終的にことが進まず、これが当面の最大のテーマであるというのが委員共通の認識である。
④今後のスケジュール
・移行経過期間切れによって、法的に解散に追い込まれるといった事態はなんとしても避けなければならないので、少し余裕をもったスケジュール感が必要である。
・早めに新しい定款案やその他諸々の対応案は固め、他事例なども参考にしながら微調整するスタンスを基本として、平成22年5月の総会で具体案の基本的了承を得、主務官庁および行政庁との事前折衝を経て内々の了解を得た上で、同23年5月の総会あるいはその後の臨時総会で最終決定することになる。
・但し、新しい会計年度開始日(=登記完了日)を4月1日とするためには、認可取得日と登記日までの法律上の時間的制約を考慮すると同24年3月中旬ごろに正式に移行認可を受け、4月1日に登記完了が必要となる。
・予定通り進めば、移行期間を約1年半残して新しい凌霜会がスタートすることになるが、その前提となる期間収支の改善状況や諸々のテーマの進捗状況も睨みながら、拙速や対応の遅れによる致命的な問題が起こらないよう、狭き道を着実に歩んでいかなければならない。

⒊ まとめ
以上限られた紙面の中で、委員会報告書の主旨を説明してきましたが、ここに至るまでに委員の皆様には冒頭に述べたように、本当にご苦労をおかけしました。特に熊谷委員には、遠路東京より全ての委員会にご出席いただき、委員会報告書作成に多大な貢献をしていただいたことを申し添えます。
引き続き委員の皆様には、残る課題の解決にご尽力をお願いすることになりますが、課題解決には会員皆様方のご協力が不可欠であります。とりわけ、対応策案の③にある期間収支均衡の早期達成には格別のご協力をお願いしなければなりません。このための諸対策は一部2月より進めてまいりますが、本格的な対策の推進は4月以降となる予定で、その具体的内容は次の機会にお知らせしたいと思っています。この期間収支均衡は凌霜会の存続をかけたチャレンジであります。重ねて会員の皆様のご理解とご協力を切にお願い申し上げます。そのためにも、凌霜会の置かれている現状をより正確に会員の皆様にお伝えする必要があり、この片方向のメッセージのみでは不十分なことは十分に承知しています。今後各地の午餐会や定例懇親会の場をお借りして、委員会報告書の説明の場を設けるなどのフォローアップを考えてまいります。
 最後に、長く記録に残ることを願いつつ、凌霜会の新たな船出に多大な貢献をしていただいた委員の皆様をご紹介し、私からのお礼の一部に代えたいと存じます。
公益法人改革対応・収支改善対策委員会
 統括委員長 平松 秀則(昭42営・神戸本部)
公益法人改革対応小委員会
リーダー  平松 秀則(前出)
委  員   熊谷  清(昭39営・東京支部)
       仲埜 啓介(昭42営・神戸本部)
       辻本 健二(昭45経・大阪支部)
       中野 常男(昭50営修・教授)
収支改善対策小委員会
リーダー  石田 雅明(昭42法・神戸本部)
委  員  熊谷  清(前出)
       三和 正明(昭42営・大阪支部)
       一木  仁(昭46経・神戸本部)
       中野俊一郎(昭60法博前・教授)
公益法人改革対応相談弁護士
       南川 和茂(昭47法・大阪支部)
事務局長  柿   聰(昭36営・神戸本部)