凌霜第388号 2011年01月26日
凌霜三八八号目次
◆巻頭エッセー
神戸大学「震災文庫」をご存知ですか 稲 葉 洋 子
◆母校通信 吉 井 昌 彦
◆六甲台だより 吉 井 昌 彦
◆理事長からのメッセージ10
「新しい凌霜会への歩み(その4)」 高 﨑 正 弘
◆学園の窓
学問と想像力 山 崎 幸 治
学生生活を振り返って 衣 笠 智 子
価格競争は社会にとって必ずしもいいことか? 島 田 智 明
ドイツ・ケルン滞在雑感 嶋 矢 貴 之
◆六甲余滴 如水会員らが六甲台見学 一 木 仁
◆凌霜俳壇 凌霜歌壇
◆2010年度日本金融学会秋季大会 地 主 敏 樹
◆「三大学学生研究討論会」60周年記念式典 萩 原 泰 治
◆臨死状態における延命措置の
中止等に関する法律案要綱について 岡 村 二 郎
◆ベルカン・ノート
ベルカン~神戸大学の活性化に向けて~ 澤 岻 優 紀
関西ビジネスケースコンペティション2010 小 堀 陽 平
◆リレー・随想ひろば
日本国はどうすれば再生できるか 石 井 肇
国際会議について 大 辻 茂 雄
協同組合事業に関与して 岡 田 康 夫
自由と開放感に満ちた空気の中で 横 井 雄 一
神戸大学法科大学院の現状 山 田 祥 也
◆本と凌霜人
「慰謝料算定の理論」 佐々木 知 子
<抜粋記事>
◆巻頭エッセー
神戸大学「震災文庫」をご存知ですか
神戸大学附属図書館 情報管理課長 稲 葉 洋 子
平成7年1月17日午前5時46分、神戸を中心に阪神間を襲った未曾有の大地震「兵庫県南部地震」から丸16年が経過しました。この地震は、神戸大学の中枢がある神戸市灘区にも大きな被害をもたらし、学生39名が犠牲となられました。この地震が引き起こした災害を「阪神・淡路大震災」と総称しています。
当時、筆者が在職していた人文・社会科学系図書館(現社会科学系図書館)は開架閲覧室書架や雑誌架の倒壊、書庫の図書・製本雑誌の落下、電動集密書架の転倒など大きな被害を受けましたが、出勤可能な職員により、水も暖房もない中、手作業で復旧しました。一番被害の大きかった現総合・国際文化学図書館には、全国の国立大学から図書館職員が駆けつけ復旧作業が行われました。神戸市立図書館が全て閉館していたため、暖房もない寒い図書館でしたが、現役高校生にも閲覧室を開放しました。
少し落ち着きを取り戻した4月、学外の方から図書館に「今回の震災関係の資料を見ることができる所はないだろうか」という問い合わせがありました。その後、上司から「今回の震災の資料を集めるのが被災地の国立大学の責務と思うができるか」と尋ねられ、日頃の図書受入業務の延長ととらえて「やります」と引き受けました。これが、現在も阪神・淡路大震災関係資料(略:震災資料)を継続して収集・保存・公開している「震災文庫(阪神・淡路大震災関係資料文庫)」の始まりです。
まず、今回の震災に関してどのような図書が出版されているのか。当時はインターネットが始まったばかりで、「アマゾン」などはなく、出入りの書店を通じて大手取次店データベースからリストの提供を受けました。しかし、この時点で出版されていたのは新聞社の写真集ぐらいでした。筆者が気になりましたのは、震災直後から被災地に入って避難所や公園で支援活動をしているボランティアの存在でした。今回の震災は、今迄のように図書を集めるだけでは実体は掴めないのではないだろうか。それを強く思いましたのは、公園などでチラシやニュースレターを作成している姿が何度も報道されたボランティアの姿でした。また、町内掲示板には飲料水やインフルエンザ接種の手書きの紙が貼られていましたし、大学にもFAXでお風呂情報などが入っていました。このようなボランティア作成の資料やチラシ、FAX情報は、3カ月以上もたってどこに行けば入手できるのだろう。
そこで、兵庫県庁、神戸市役所、神戸商工会議所、そして震災翌日から神戸に事務所を構えボランティア活動を支援していた「阪神大震災地元NGO救援連絡会議」に出向き、神戸大学附属図書館の震災資料を集める取り組みを説明し、協力をお願いしました。特にNGOは、阪神・淡路大震災の5年前に起こった雲仙・普賢岳災害現場のボランティア活動記録がうまく残せなかったという反省を踏まえて、今回の活動記録を残そうと動き始めていましたのでスムーズに連携をとることができました。
また、資料収集に市民の協力を得るため、6月初め、神戸新聞社に原稿を送り掲載を依頼しました。この頃はまだ、新聞社も震災の記録に無関心でした。6月末までに集まった資料300点を元にデータベースを作成し、7月初めに図書館ホームページをデザインし「収書速報」の公開を開始。「震災資料とはこのような資料ですよ」と広報を兼ねた情報発信です。月2回定期的にデータを更新し、他の機関の収集にも利用していただきました。資料が1、000点を超えた時点で、分類表を作成し、公開時期を10月30日と決定。8月には報道各社が、震災の記録を残すということに注目し始めましたので、資料収集を推進するため積極的に取材を受け、PRしていただきました。
資料収集を始めて半年経過した10月30日、「震災文庫」の一般公開を開始しました。公開に併せて、ホームページのデザインも一新、収集資料の検索も可能にしました。法人化後、国立大学図書館の一般公開は当たり前ですが、当時は珍しいことでした。しかし、「震災文庫」は復旧・復興・防災に役立てていただくことを目的とし、かつ市民の方から多くの資料を寄贈していただいています。そのため当初から一般公開を前提にしました。当日は図書館の中にようやく確保した狭いスペース、そこに利用者がつめかけ、デパートのバーゲン会場のようだと言われました。震災直後の自宅の写真を求める被災者、地震直後の屋外の音を尋ねる作家など、研究者以外から多くの調査依頼が寄せられました。
今回の震災は神戸という土地柄もあり、日本語以外の言語を母国語とする方々も大勢被災されました。そこで多言語の資料も積極的に集めました。また、震災の状況を言語に関係なく理解していただくには、写真資料が一番適切だという判断から、平成8年には図書館被災写真のデジタル画像にキャプションをつけて公開、これがきっかけとなり、静止画写真や動画資料のデジタル化が進みました。
インターネットの利用者が増加するにつれ、日本のどこからでも情報が取得できるよう、平成10年にはチラシやポスターなどの1枚もの資料について、デジタル画像の公開に着手しました。インターネットで発信するには資料1点1点につき、作成した方の著作権許諾が必要となります。誰が、またはどの団体・機関が作成したのか、資料から読みとれる情報を元に住所を探し、手紙で許諾を取ります。気が遠くなるような作業ですがメリットもあります。突然、大学から著作権許諾依頼を受け取った方はびっくりされますが、この資料が「震災資料」になるのならこれもということで追加資料をいただけるようになりました。これはとてもありがたいことでした。
平成9年8月、収集資料が1万点を突破しました。この頃になりますと「震災文庫」の評判が定着し、解散をするいくつかのボランティア団体からまとまった資料が寄贈されました。これらの資料を使いやすく公開していくためには、初期「震災文庫」手作りシステムでは対応ができなくなってきましたが、幸いにも平成10年度補正予算により、「震災文庫」の実績が評価されて電子図書館構想が認められ、平成11年7月新システムに移行し、新たなサービスが提供できるようになりました。翌8月、トルコ・イズミット地震、9月には台湾大地震が発生。「震災文庫」へのアクセスが急増し、また、トルコや台湾の研究者からの資料提供依頼にも対応しました。
平成12年11月に開催した「震災文庫」開設5周年記念講演会では、新野幸次郎元学長に基調講演をしていただくと共に、学内外の研究者に震災研究の成果を発表していただくことができました。
音声資料、動画資料なども先駆的にインターネットで提供し、平成21年1月には「震災文庫」と「阪神・淡路大震災 人と防災未来センター」との横断検索を提供しています。最近では、地方自治体や企業から、防災資料作成のための転載許可願いが年間100件近く寄せられていますし、テレビ番組や台湾中正大学地震博物館の展示、スペインで開催されたサラゴサ国際博覧会での動画展示など、国内外で資料が活用され、防災に役立てられています。また、平成22年10~11月には伊丹市立博物館秋季企画展に震災資料が展示されました。この中には阪急電鉄が作成した震災当時の行き先表示などの掲示物が多くありましたが、これらは現在、阪急電鉄にも残されておらず、「震災文庫」にのみ保存されています。
皆さまの身の回り、あるいは自宅の片隅に震災当時の資料は眠っていないでしょうか。現存するのはそれ1点かもしれません。震災資料の収集にこれからもご協力をお願いいたします。
筆者略歴
1951年生まれ。神戸市出身。75年神戸大学附属図書館に採用。2001年香川医科大学へ。その後、香川大学、国立民族学博物館、大阪大学を経て、10年神戸大学へ戻る。著書に『阪神・淡路大震災と図書館活動』(西日本出版社、2005年)。
◆理事長からのメッセージ 10
「新しい凌霜会への歩み(その4)」
社団法人凌霜会理事長 高 﨑 正 弘
新しい年を迎え、はや1カ月が経過しましたが、本年が凌霜会会員ならびにご家族の皆さまにとって幸せの多い年でありますよう心よりお祈り申し上げます。
さて、凌霜会の将来を左右する公益法人制度改革への対応状況をお伝えする目的で始めた標記の「新しい凌霜会への歩み」も、今回で4回目となります。この間、公益法人制度改革への対応を種々進めて参りましたが、今年7月に予定している一般社団法人への移行認可申請に向けて、関係者全員、最後の詰めに遺漏なきを期す所存であります。そこで今回は、前号でお知らせしました文部科学省(以下「文科省」という)の立入り検査の指摘に対応した「凌霜会の改善措置」及び一般社団法人への移行に関し最大の課題であります「凌霜会の活性化と財務基盤の安定」についてご報告申し上げます。
まず、新法人への移行認可取得に向けて法規上の必要条件であります以下に記載の「凌霜会の体制の整備、諸規定等の新設・改正及び内部留保率の改善策」等につきましては、去る12月2日の臨時理事会においてご承認いただき、文科省に改善措置として報告すると同時に、順次実行に移しています。
①凌霜会の定款では、毎年、翌事業年度の事業計画及び収支予算書は3月末までに少なくとも理事会の決議を経て文科省に提出することとなっていますが、これまでは長年の慣行として、年1回5月に開催される総会での承認後に前事業年度の決算書と一緒に提出する形をとっております。今後は、今回の指摘を受け理事会運営規則を整備して、理事会を3月及び5月に開催し、翌年度の事業計画及び収支予算書は3月末までに、事業報告及び決算書は6月末までに所定の手続きを経て文科省に提出することと致しました。
②凌霜会の業務を適確かつ円滑に処理するため、現在の規則の見直しを含め、業務上ならびに組織運営上必要な規則を整備致しました。対象となる規則は、前者が「組織及び職制に関する規程」、「決裁に関する規程」、「公印取扱規程」、「文書規程」、「会計規程」であり、後者が「就業規則」、「給与規程」、「再雇用規程」等の職員関係規則であります。
③公益事業費率(公益事業支出÷総支出∨50%)をクリアするため、新公益法人会計基準に則り、これまで管理費として計上していた費用のうち、公益事業実施に係る人件費及び物件費等の費用を公益事業の付帯費として事業費に計上致しました。この結果、平成21年度の決算における同比率は85・3%となり、基準をクリアすることとなりました。
④内部留保水準の適正化につきましては、「公益事業安定化基金規程」を新設し、平成22年度の決算において基金勘定を設け、「公益法人の設立許可及び指導監督基準」及びその運用指針に規定される基準に合致するよう処理致します。
(注)内部留保の水準は「年間の事業費及び管理費の合計額の30%程度」と規定されており、またその対象金額は、総資産額から退職給与引当金など法定の引当金や前受金などの負債相当額に加えて、今回の公益事業安定化基金勘定も控除対象として認められています。
以上の対策を講ずることにより、文科省のご指摘に対する改善は完了することになります。本件に関しましては、文科省との事前折衝等に、法律・渉外担当の熊谷顧問にご尽力いただきましたことを、誌面をお借りしてご報告し、お礼に代えたいと思います。
他方、一般社団法人への移行に関して凌霜会最大の課題としてかねてからお伝えしている「凌霜会の活性化と財務基盤の安定化」につきましては、ご担当の石田顧問を中心に、若手会員との接点の多様化、強化などを進めていただいていることも12月2日の理事会でご報告し、ご了承を得たところであります。
もとより、この課題は一発ホームランで解決できるような性質のものではありません。地道に試行錯誤も重ねながら、粘り強く対応していく必要のあるテーマでありますが、お蔭さまでこれまでのご尽力により、準会員の入会率の向上や、正会員の新規加入等にその成果が出始めています。その結果、本稿執筆時点における今期の正味財産増減額は、5月の総会でご承認いただいた特別対策費を除くと、若干のプラスとなる見込みであります。
引き続き会員の皆さまにも、現役学生向けのセミナーの講師など種々ご相談、お願いが参ろうかと思いますが、ことの重要性をご理解いただき、ご協力下さいますよう改めてお願い申し上げます。私も昨年11月25日、母校の内田キャリアセンター長のご依頼を受けて、新入生を対象とした全学キャリア科目「職業と学び―キャリアデザインを考える」の講義を行い、最後に「他人や国家に何をやって欲しい、何が足りないと言う前に、自ら考え行動する自立した個人を目指して欲しい。また、卒業後もいつまでも母校に愛着を感じる、温かみや幅のある人間になって欲しい」と締めくくりました。
ところで、12月10日(金)、一橋大学の同窓会である如水会の皆さんが六甲台を訪問され、凌霜会関係者でお迎えしました。翌11日の東京工業大学~一橋大学合同の移動講座を神戸ポートピアホテルで開催される機会を利用して、昔からご縁の深い凌霜会をお訪ねいただいたもので、ご一行は一橋大学にゆかりの深い水島銕也神戸高等商業学校初代校長、田崎愼治神戸商業大学初代学長の胸像や中山正實画伯の壁画などを見学され、故人の遺徳を偲ばれました。旧三商大の流れを汲む我々は学術研究・スポーツなど幅広い分野で交流を続けていますが、今後はOB会の交流も前進させたいと考えています。
寒さの中にも春の訪れを感じる昨今ですが、会員の皆さまにおかれましてはお元気に毎日をお過ごしいただき、5月の総会で一人でも多くの方々にご挨拶できることを楽しみにしています。