凌霜第398号 2013年07月29日
凌霜三九八号目次
◆巻頭エッセー 神戸大学社会科学系部局の新たな横断的取り組み 金 井 壽 宏 松 尾 貴 巳 ■目 次 ◆母校通信 正 司 健 一 ◆六甲台だより 鈴 木 一 水 ◆本部事務局だより 一般社団法人 凌霜会事務局 ◆(公財)六甲台後援会だより(33) (公財)神戸大学六甲台後援会事務局 ◆学園の窓 エコノ・リーガル・スタディーズ 高 橋 裕 仮住まいとしてのマクロ経済学 小 林 照 義 コーポレートガバナンスについて 鈴 木 健 嗣 復興・防災教育を通じて神戸と石巻をつなぐ 桜 井 愛 子 ◆凌霜ゼミナール 数学教師としてパチョーリをみる 三 浦 伸 夫 ◆凌霜俳壇 凌霜歌壇 ◆大学文書史料室から(7) 野 邑 理栄子 ◆学生の活動から 平成24年度 経済・経営・法学部謝恩会 伊 藤 咲 織 平成25年度 凌霜新入準会員歓迎の集い 近 藤 丈 司 神戸大学体育会水泳部の紹介 赤 松 優 輝 1部昇格をめざして 一 尾 友 貴 ニュースネット委員会の活動 香 月 隆 彰 児童文化研究会100周年を迎えるにあたって 江 頭 剛 ◆六甲台就職情報センター NOW 新聞を読む 浅 田 恭 正 ◆「海賊とよばれた男」出光佐三 柿 聰 ◆本と凌霜人 「公益法人制度改革とその日本と世界 (ソーシャルビジネス社会)との連係」 山 下 智 久 ◆表紙のことば セルギエフ・ポサードを訪ねて 石 原 詔 正 ◆リレー・随想ひろば 南米官費旅行 上 枝 幹 雄 野球少年 藤 田 卓 仏跡巡拝の旅から 戸 田 千 之 エコノミックアニマル 趣味の世界に生きる 伊 東 静 夫 思えば遠くに 梅 﨑 創 ◆支部通信 東京、京滋、大阪、神戸、福岡、熊本 ◆メルマガ「凌霜ビジネス」ヘッドライン ◆つどい 弘凌会、水霜談話会、JP六甲会、神戸凌港会、 大阪凌霜短歌会、東京凌霜俳句会、大阪凌霜俳句会、 凌霜川柳クラブ、童研童友会、神大クラブ、 日本拳法部、神漕会、凌霜謡会、宝生会 ◆ゴルフ会 凌霜思誠ゴルフ会、名古屋凌霜会、茨木凌霜会、 能勢神友会、芦屋凌霜KUC会、廣野如水凌霜会、 垂水凌霜会、花屋敷KUC会 ◆クラス会 学十六回、凌専会、凌霜二十二会、法一会、互志会、 しんざん会、しこん会、神五会、さんさん会、三四会、 山麓会、白陵三下会、白陵惜春会、イレブン会、 むしの会、双六会、四三会、一八会、与禄会 ◆追悼 荻野茂希さんを偲ぶ 竹 内 淳一郎 ◆編集後記 鈴 木 一 水
<記事紹介> ◆巻頭エッセー 神戸大学社会科学系部局の新たな横断的取り組み ―神戸大学社会科学系教育研究府の設立と今後の展開― 社会科学系教育研究府長 金 井 壽 宏 社会科学系教育研究府 高等アクションリサーチ・ユニット長 松 尾 貴 巳 1.建学以来のスピリットと現代の課題 凌霜会の皆さまには周知のことですが、神戸大学のルーツは、前の世紀へ入って間もない1902(明治35)年に遡ります。草創期のリーダー水島銕也先生は、学理を現実の問題に応用して、実践に役立てることを重んじられました。しばしば、社会科学において、「理論なんか役に立つのか」という声を聞くことがありますが、この「学理の実際への応用」という建学以来のスピリットからすれば、役に立つのがよい理論だという姿勢でわれわれは取り組んできました。凌霜会の先輩の方々は実務界で活躍されていますのでお分かりのことと思いますが、社会科学系5部局の成果には、産業社会の現実を直視し、よりよい姿にそれを変革していくのに役立つような、社会科学の分野間の実践的統合が必要な時代になっています。 会員の皆さまのなかには、たとえば、法学部を卒業後、実務界では経済や経営の問題に取り組まれる方もあれば、在学中は経済学部で学び、卒業後、経営のポジションに近づくにつれて経営学にも馴染み、ガバナンスにかかわる法律問題に直面されている方、また、経営学部出身でキャリアを歩むにつれて、マクロ経済の問題やM&Aの法律面にも詳しくなられた方々もおられることでしょう。 学問は、その進化のために専門分野が分化して発展していくことも必要ですが、他方で、現実に直面するダイナミックな問題の複雑性に応じて、分野にまたがる視点、しかも、それを統合的に把握する視点が求められてきます。研究面では、1919年創設の経済経営研究所は、設立当初より、経済学・経営学の両分野を掲げていることを特色とし、各分野の学術研究のフロンティアを前進させるとともに、両分野が融合する新たな研究領域を開拓してきました。また、1992年には国際協力研究科が創設され、グローバルに活躍できる人材を輩出しています。グローバルに活躍するためには、個別諸学を超えた学習、それを支える研究が必要であり、教育面もあわせて国際協力研究科は学際的です。さらに、法学研究科と経済学研究科は、連携した学部向けの試みとして法経連携教育(法経連携基礎演習)を実現してきました。個別の部局をみても、筆者の勤務する経営学研究科には、経済学、心理学、工学を、経営学のフロンティアに活用するスタッフがいます。 社会科学系学部・研究科を卒業・修了された皆さまにとって出身学部(さらに言えば、ゼミ)に一番の愛着と郷愁をお持ちでしょうが、同時に、クラブ、サークル活動、その他の活動を通じて、全学のネットワークも大切にされていることでしょう。神戸大学でも、2006年から全学のホームカミングデイも整備されました。他方で、学部と全学の中間に、六甲台で学んだ皆さまのコミュニティがあり、それが凌霜会にほかなりません。凌霜会は、そもそも創設時より、社会科学系の異なる部局を横断する組織体でした。ですから、『凌霜』の誌面に、六甲台5部局を連係するための組織として社会科学系教育研究府(社系府)が誕生し活動を本格化し始めたことを報告させていただくことを大変ありがたく思っております。 2.神戸大学社会科学系教育研究府の発足 われわれの社会が今日、直面する問題は、グローバルな舞台に位置づけることなしに根本的な解決は難しく、他方で、われわれの社会を再び活力あるものにするための政策的な提言は、複数の学問分野の俊秀が力を合わせることなしには、潜在的パワーを発揮することができない時代となりました。幸いなことに、現実の問題の抜本的な解決には、学問分野間の協同が重要だと見抜いた、われわれの先輩たちによっても、連携が目指されてきました。この姿勢を貫き、今日の閉塞感から脱するために社会科学の総合力を発揮することが、いっそう強く求められるようになってきました。今、いろいろな領域で綻びが目立ち、かつての勢いを失った日本の立て直しに連携がいっそう望まれるようになってきたと、われわれは信じています。 ここに、われわれというのは、神戸大学における社会科学系5部局、つまり、法学研究科、経済学研究科、経営学研究科、国際協力研究科、経済経営研究所の教育研究に従事するスタッフです。この質・量ともに日本で最大規模の陣容をもつ、社会科学系のパワーを縦横に結集する新たな仕組みとして、神戸大学社会科学系教育研究府(社系府)が2012年4月1日に発足いたしました。 3.社会諸科学における「分化に応じた統合」という視点 経営学の組織理論に、「分化と統合(differentiation and integration)の理論」という学説があり、組織が分化している度合いの大きさに応じて、より精緻な統合メカニズムが発達していないと、組織は潜在的パワーを全開にできないという命題があります。専門性を深耕するためには、専門分野ごとに学部や大学院が分化することは必要ではありますが、現実の問題は、それらを統合する視点なしには解けないものが増えてきました。分化は、専門性を研ぎすます上で不可欠ですが、同時に、現実の問題を解決するには、分化が進行した度合いに応じて、統合をもたらす組織的仕組みが必要となります。「分化の度合いに応じた統合メカニズムが必要である」という命題は、そもそも組織理論の命題であるばかりでなく、生きているシステム、変化のなかでも成長・発展するシステムの特徴でもあります。 また、興味深いことに、この命題は、個人というシステムの発達(や衰退)から、集団、組織、産業、国家、グローバルな舞台といったシステムの発達(や衰退)に至るまで、複数のレベルにまたがって成り立つ命題でもあります。社系府一周年記念シンポジウム(後述)における伊藤哲雄特命教授の講演におきましても、グローバリズムの進行は、他方でナショナリズムのあり方にも影響を与え、逆の方向の影響も存在し、ヨーロッパでのEU統合も、この分化と統合という視点に対して、含みをもっているように思われました。古くは、1961年1月20日に、J・F・ケネディは、大統領就任演説で「多数の協同的なベンチャーにおいて、しっかり連携していれば、成し遂げられないことなどほとんどありませんが、ばらばらのままだったら、できることはほとんどありません(United, there is little we cannot do in a host of cooperative ventures. Divided, there is little we can do)」と力を込めて語りました。世界全体で起こっていることの縮図が、大学というミクロコスモスでも起こっています。 50年以上前のケネディとは、生きている時代も国も異なりますが、世界というグローバルな舞台における、喫緊の課題が今の日本には山積みです。われわれ日本人も地球人としての自覚をもち、グローバルな世界を見据えた変革に真剣に取り組むべき時期に来ています。にもかかわらず、各産業も、国家レベルでも、かつて日本の奇蹟と言われた経済も政治も経営も、ぎりぎりのところに立ちすくんでいるかのごとくです。 学際的かつ実際的に取り組むことが強く求められるこの時代に、最先端の理論に依拠しつつ実践的に解決するために必要なことは、神戸大学の社会科学系部局に「分化に応じた統合メカニズム」をもたらすことです。これまでも、伝統的に社会科学系の部局は個人レベルで横断的なコミュニケーションを図ってきましたが、その伝統に加えて、このたび設立した社系府を通じて、各部局のユニークさを相互尊重すること(分化)も、課題解決のために横断的なプロジェクトを通じて意味ある形で連携すること(統合)も、ともに大切にしていきます。 4.社系府のスタッフ陣、スタートアップ期の活動と実施体制 社系府の設立と運営には、社会科学系5部局が協力しており、社系府長(専任)、3ユニット長(後述の通り、兼任)のほか、府の開設を期に担当教員(法...齋藤彰教授、玉田大准教授、経...中村保教授、国協...柴田明穂教授、研究所...上東貴志教授)が就任し、本年4月までに特別教授(明石康・元国連事務次長)、特命教授(伊藤哲雄・前在ハンガリー日本国特命全権大使、西村和雄・京都大学名誉教授、日本学士院会員)、特命准教授(紅谷昇平・前公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構 人と防災未来センター研究主幹、モハメド・ブドゥルル・ハイダー、アディカリー・ビシュヌ・クマル)が就任しています。特に学外から、そして海外からも、かくもすばらしい著名な方々が府に関与してくださることになりましたことを喜んでおります。 早いもので、準備から今までの時間があっという間に過ぎましたが、本年5月23日に「グローバル社会で活躍するための条件」と題する社系府一周年記念シンポジウムを出光佐三記念六甲台講堂にて開催しました。明石康特別教授、伊藤哲雄特命教授、西村和雄特命教授に、それぞれ、「他流試合のすすめ―国連の体験にもとづいて」、「グローバリズムとナショナリズム―ハンガリーから見たEU統合」、「グローバル社会で求められる素養―規範意識と学識」という相互に関連しつつも三者三様の特徴ある講演をいただいた後、パネルディスカッションを行いました。最後の質疑応答の時間には多数の質問をめぐる興味深いやりとりが実現しました。学内外関係者、卒業生、そして多くの学生が参加し、500名を超える盛大な催しとなりました。同じ日に、紅谷特命准教授によるセミナー「日本の災害対応の課題―制度・組織・リーダーシップ」も開催され、盛りだくさんの日となりました。この場を借りて、ご支援を賜った方々、ご参加いただいた方々にお礼を申し上げます。 組織という面からの実施体制は、図にありますように、3つのユニットから構成されており、5部局や学外の多様な組織と連携したプロジェクトを通じて、新たな統合知を生み出すことができると考えています。 ⑴社会科学先端リサーチ・ユニット(The Advanced Social Science Research Unit ユニット長...地主敏樹経済学研究科教授) 社会科学分野における基礎的研究(経済理論、比較経済・法システムなど)や政策研究(公共政策、経済政策、地域・交通政策、紛争解決策など)を学際的に共同研究し、国際規格、環境規制、M&A法制、企業統治、国際特許紛争、技術戦略、国際マーケティング、経営者育成・人材開発、サプライチェーン・マネジメント、グローバル・グループ戦略等の課題について産官学連携で共同研究することを目的としています。 ⑵産業創生インキュベーション・ユニット(The Entrepreneurship and Finance Research Unit ユニット長...伊藤宗彦経済経営研究所教授) ベンチャー事業の創造やベンチャー事業における企業経営、市場開拓、技術管理、顧客サービス等の支援を行う組織です。本学で開発された技術的シーズに基づく事業創造や企業から持ち込まれる市場ニーズに対する課題解決のサポートを行うことで、ベンチャー事業を創造する人材を養成するとともに、その技術革新の水平展開を通じて日本企業の国際競争力を高めることを目的としています。 ⑶高等アクションリサーチ・ユニット(The Advanced Action Research Unit ユニット長...松尾貴巳経営学研究科教授) 企業や非営利組織が直面する課題を受け入れ、実務に積極的に関与し理論を応用する臨床型のフィールド研究(アクションリサーチ)を行う組織です。革新的プロセスの実践を行う共同研究や課題解決を行い、臨床研究の成果を蓄積することで、理論の実務への適用可能性を高めると共に、社会科学系理論の応用手法を開発し体系化することを目的としています。 社系府設立以来、これまで部局間において横断的に実施されてきた神戸大学金融研究会、経済経営研究所などが主催する研究会に共催として支援すると共に、「産業集積研究のフロンティア―ヒストリカル・アプローチ―」、「合併の経済効果―20世紀初頭における鐘淵紡績会社の事例―」、「アクションリサーチとはなにか」といったテーマのセミナー、ワークショップを開催してきました。5部局全体で情報共有できるようになったことで、より広い分野から研究者、学生が集まるようになりました。たとえば、一周年記念のセミナーでは、震災対応のマネジメントについて、国際協力研究科教員・学生だけでなく、法学研究科や経営学研究科など他部局において震災関連の研究をしている教員・学生が意見を交換することができました。 このような取り組みを学外者を交え拡大させていくための仕掛けとして、本年度からフェロー制度を導入する予定です。他大学の研究者や実務家をフェローとして受け入れることで、部局横断的な取り組みを他大学、産学連携の取り組みに広げていきたいと考えています。 5.結びとお願い 神戸大学の開学以来のルーツ、スピリットを尊重しつつ、また、各部局の独自性にも最大限に配慮しながら、社系府というキャノピー(天蓋)のなかで、多数の協同的な教育研究プロジェクトに乗り出すたびに、「この府が貢献すれば成し遂げられないことなどほとんどない」と言われるように発展させていきたいと考えています。内外の共同研究者、協力・提携関係の団体・組織のリーダー、わたしどもの研究教育成果のユーザーである方々、そして凌霜会の熱心な諸先輩の皆さまのご協力を得て、神戸大学が社系府を創ってよかったと言われるように5部局の力を結集します。凌霜会の会員の皆さま、卒業・修了された学部・研究科へのご支援と合わせて、社系府の活動にもご理解とご支援をどうかよろしくお願いいたします。 筆者略歴 金井壽宏(かない としひろ) 1954年生まれ。1980年神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。1989年MIT(マサチューセッツ工科大学)Ph.D.(マネジメント)を取得、1992年神戸大学で博士(経営学)を取得。2010年経営学研究科長。2012年(現在)社会科学系教育研究府長(経営学研究科教授)。専門は経営管理・経営行動科学。 松尾貴巳(まつお たかみ) 1991年大阪府立大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。㈱三菱総合研究所で経営管理に関する研究・コンサルティングに従事。1998年大阪府立大学経済学部助教授を経て2004年神戸大学大学院経営学研究科助教授。2010年神戸大学で博士(経営学)を取得。2012年(現在)社会科学系教育研究府高等アクションリサーチ・ユニット長(経営学研究科教授)。専門は経営管理・管理会計。 |