凌霜第407号 2015年09月29日

ryoso407.png凌霜四〇七号目次

◆巻頭エッセー 社会科学系教育研究府の現状とこれから  柳 川   隆

◆母校通信                               藤 田 誠 一

◆六甲台だより                             鈴 木 一 水

◆本部事務局だより                一般社団法人 凌霜会事務局

通常理事会で平成26年度事業報告及び決算書類など承認/第4回定時総会/臨時理事会で副理事長1名を選出/海外在住や海外赴任される会員へのお知らせ/ご芳志寄附者ご芳名/事務局への寄附者ご芳名

◆第8回(平成27年度)社会科学特別奨励賞(凌霜賞)受賞者

◆一般社団法人凌霜会決算書

◆新入会員/新入準会員

◆凌霜俳壇  古典和歌

◆神戸高商初代校長・水島先生の伝記漫画

  「明治・大正期の教育者 水島銕也」が出版される

◆凌霜会の会員増強を!            凌霜会会員増強対策実行委員会

◆(公財)六甲台後援会だより(42)  (公財)神戸大学六甲台後援会事務局

◆大学文書史料室から(16)                    野 邑 理栄子

◆学園の窓

 国立大学改革について                        正 司 健 一

 家計の金融行動と金融リテラシー                 家 森 信 善

 神戸大学―わが人生の〝僥倖〟                 前 田 裕 子

 法学研究のグローバル化?                    興 津 征 雄

◆学生の活動から

 平成27年度 第36回神戸大学六甲祭開催のお知らせ   大須賀 香 代

◆六甲台就職情報センター NOW

  六甲台就職情報センターの指導員となって         土堤内 清 嗣

◆本と凌霜人

 「日本再生のシナリオ―農業の産業化と広域FTAの活用─」 齋 藤   彰

 「晩晴を尊ぶ『イカナゴのくぎ煮作り』物語」           都 倉 康 之

 「親鸞聖人の教え」                        五百簱頭 邦 夫

◆表紙のことば  秋の野柳地質公園を行く(台湾)       奥 田 光 彦

◆リレー・随想ひろば

 ごまめの歯ぎしり                          熊取谷 隆 司

 最小公倍数の中国と最大公約数のインド           米 倉 史 郎

 六甲台での学び                           山 岡   淳

 神戸大学を卒業して                        永 岡 希 江

◆追悼

 伊藤信吉君(昭31営)を偲ぶ                   浅 野 定 志

 冨岡迅夫君(昭32営)を偲んで                  柳 下 健 二

◆編集後記                               鈴 木 一 水

◆投稿規定

<抜粋記事>

巻頭エッセー

社会科学系教育研究府の現状とこれから

          社会科学系教育研究府長 柳  川     隆

 社会科学系教育研究府(社系府)が創立されて約3年半、私が第2代の府長を仰せつかり早くも約1年半が経ちました。この間、社系府は、社系5部局の連携による教育研究の推進を着実に進めてきており、神戸大学の機能強化、第3期中期計画の中ではさらに重要な役割が期待されるほどになりました。今あらためて、多くの人から、六甲台に社系府を創立してよかったという声が聞かれます。『凌霜』398号(平成25年8月)には初代府長の金井壽宏教授(営)と当時の高等アクションリサーチ・ユニット長で本年9月まで副府長の松尾貴巳教授(府)により、創設時の社系府紹介があります。そこで、本稿ではそれ以降の社系府の変化をご紹介するとともに、これからの姿についての展望を述べさせていただきたいと思います。

 社系府は、3つのユニットを設置し、6名の特命教員を招いてスタートしました。3つのユニット(カッコ内はユニット長)とは、分野横断的な先端研究を行う「社会科学先端リサーチ・ユニット(中村保教授(済))」、産学連携事例研究を行う「産業創生インキュベーション・ユニット(伊藤宗彦教授(研))」、産学連携臨床研究を行う「高等アクションリサーチ・ユニット」でした。その後、この1年半の間に、分野横断的総合教育を行う「社会科学総合教育ユニット」、防災・リスクマネジメントに関する国際的な文理融合的研究教育を行う「防災リスクマネジメント・ユニット(金子由芳教授(国協))」、世界の地域研究及び地域横断的研究を行う「グローバル地域研究ユニット(吉井昌彦教授(済))」が設置されました。また、「高等アクションリサーチ・ユニット」は「環境マネジメント・ユニット(鈴木竜太教授(営))」、「社会科学総合教育ユニット」は「学際教育ユニット(角松生史教授(法))」と改称し、現在はこれらの6ユニット体制となっています。社系府の運営は、ユニット長と府長、副府長(松尾教授と金京拓司教授(済))で行っています。

 社系府はユニット活動を基盤としていますが、新たな試みとして、ユニットの中にプロジェクトを設けました。ユニットは社系府を構成する組織であり、継続的に持続されるのに対し、プロジェクトは研究教育活動を行う主体となり、一定の期間を定めて(1~3年、更新可)いずれかのユニットに属し、期間終了後には終了するか、更新・変更するか、あるいはユニットとして独立します。

 現在はさまざまな学際・連携による以下の14のプロジェクトが実施されています。それぞれのプロジェクト名とプロジェクトリーダーを紹介しますと、文理融合による「歴史資料の画像データベース化と電子検索のシステムの構築(上東貴志教授(研))」と「医療マネジメント(松尾教授)」、南洋理工大学、厦門大学、ハワイ大学等と連携する「環太平洋国際連携共同研究(羽森茂之教授(済))」、総務省との連携による「ミクロデータ分析にかかる研究・教育拠点の形成(勇上和史准教授(済))」(以上、社会科学先端リサーチ・ユニット)、産学連携による「計算機と社会(伊藤教授)」(産業創生インキュベーション・ユニット)、産学連携による「グローバル・グリーン・サプライ・チェーン・マネジメント(松尾教授)」や「アクションリサーチ(松尾教授)」、「管理会計研究のフロンティア(松尾教授)」、中国社会科学院との連携による「アジアにおける拡大生産者責任研究交流プラットフォーム構築(石川雅紀教授(済))」(以上、環境マネジメント・ユニット)、都市安全研究センター等との文理融合による「災害復興研究(金子教授)」と「防災教育研究(紅谷昇平特命准教授(府))」(以上、防災リスクマネジメント・ユニット)、人文・社会科学連携により北京外国語大学と共同研究拠点を設立した「現代中国研究拠点(加藤弘之教授(済))」(グローバル地域研究ユニット)、法学と経済学の連携によりエコノリーガル・スタディーズを推進する「法経連携専門教育(ELS)プログラム(高橋裕教授(法))」、マレーシア国立大学等との交流を通じた「アセアンプラス諸国との社系学際教育プログラムの開発(齊藤彰教授(法))」(以上、学際教育ユニット)が実施されています。

 プロジェクトには次のような意義があると考えています。神戸大学社系5部局の中には社会科学を専門とする多数の研究者が在籍していますが、必ずしも他の部局の教員の研究動向について詳しくは知りません。プロジェクトを立て、ワークショップやシンポジウムを公開して実施することにより、同様の関心を有する他の研究者もその旗の下に集まることができます。そうすることで大型研究プロジェクトを担うチームを編成しやすくなります。理系の研究者が研究室単位で共同研究を行うのに対し、社系の研究者は社系府のプロジェクトを通じてゆるやかに連携した共同研究を実施することができるようになります。社会科学においてもこれまで以上に大型の研究プロジェクトが望まれるようになっており、社系府のプロジェクトはそうした時代にふさわしい体制であると考えています。

 この他にも、社系府ではいくつものプロジェクトが立ち上がろうとしています。たとえば、私が直接に関わる範囲でも、2つのプロジェクトを目指しています。1つは高橋教授、角松教授、多湖淳教授(法)等と一緒に、エコノリーガル・スタディーズと国際関係研究の連携により、KUルーヴェン、エセックス大学、上海交通大学と法・政・経の学際的な国際共同研究を行おうと競争的資金を申請しています。また、もう1つは松尾教授、角松教授等と概算要求に向けて社系府でまとめた研究計画で、残念ながら今年は認められなかったものですが、企業、地方自治体、国、世界のガバナンスを包括的に研究するガバナンス研究です。ぜひ大きな研究計画に向けて、できるところから少しずつ共同研究を進めていきたいと思っています。

 平成28年度から第3期中期計画が始まります。現在の特命教員の任期も27年末で終わります。昨年度の後期に、第3期中期計画期間中の姿について運営委員会で議論しました。その1つの答えが上記のユニットの拡充とプロジェクトの設置でした。また、社系府にとって実質的に重要な課題は特命教員枠の継続確保でしたが、幸いにも再度6名の教員枠を学長に認めていただくことができました。これで引き続き卓越した特命教員を採用できることになり、社系府の大型プロジェクトをリードしていただくことを期待しています。

 第3期中期計画に向けて、大学では文理融合研究をこれまで以上に推進していくことを決め、社会科学系部局もこれに応じ、社系5部局と社系府では「社会システムイノベーション」という大型プロジェクトの特別経費を概算要求で文部科学省に要求しています。もし予算が認められれば、神戸大学の社系では、環境・資源、医療・福祉、金融・ITという、社会にとって重要な文理融合分野での研究を縦糸とし、これらの個別分野を横断した市場研究と社会制度研究、及びアントレプレナーシップの研究を横糸とする共同研究を立ち上げます。これらに関係する教員は新規採用予定の特命教員を含め総勢50名を予定しています。この大型プロジェクトは5部局連携で行われるため、社系府が中心的な役割を果たすことが期待されます。社系府は社会科学の学際的な連携教育研究を行うことを目指していましたが、いまや理系も取り入れた文理融合研究にも取り組もうとしています。特別経費を目指した研究プロジェクトを立ち上げようとした際には、社系府でアドホックなミーティングを行い、5部局の教員が30名も集まり意見交換をしましたが、社系府ができたことでこうした会合もできるようになったと思います。

 社系府は、まだ歴史が浅く、大学財政がより一層厳しくなる中で、残念ながら財政的には問題があります。各プロジェクトは、科研費等の外部資金の獲得を目指して活動していますが、社系府としては、せめてプロジェクトが外部資金を獲得するまでの資金的な助成を行い、めでたく外部資金が得られた際にはプロジェクト活動を実施する際の人的なサポートを行いたいと考えています。しかし、現在、社系府が大学から支給される予算はほとんどが特命教員人件費であり、ユニット活動や特命教員の研究費等が大学から支給されません。また、社系府には事務補佐員が1名いるだけで、プロジェクト活動を行う手助けが十分にできません。

 こうした中で、六甲台後援会からいただく資金助成は、社系の連携研究教育のためのプロジェクト経費やシンポジウム経費として、また、外部資金を取るための戦略的な活動のための資金として大変重宝しております。今年度いただいたプロジェクトへの資金助成により、また新たにいくつかのプロジェクトができることになります。この場をお借りして同窓会の皆様に厚くお礼を申し上げます。

 大学では、社系府を改組して、人文・社会科学の両分野にまたがる文系全体の学際的連携研究組織とする構想があり、次回の府長からの『凌霜』誌巻頭エッセーでは、社系府のさらに発展した姿をご紹介いただけるものと思います。