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新着情報

2023年4月18日
会誌「凌霜」

凌霜第437号

 

     凌霜四三七号目次                  

表紙絵 昭34経 本間 健一                 

カット 昭34経 松村 琭郎

 

◆巻頭エッセー

神戸大学における情報基盤の状況   鳩 野 逸 生

目 次

◆母校通信   中 村   保

◆六甲台だより   行澤一人、鈴木 純、清水泰洋、四本健二、村上善道

◆本部事務局だより   一般社団法人凌霜会事務局

ご芳志寄附者ご芳名とお願い/事務局への寄附者ご芳名

会費の銀行自動引き落としへの移行のお願い

◆(公財)六甲台後援会だより(72)

◆大学文書史料室から(46)   野 邑 理栄子

◆学園の窓

経済経営研究所長就任にあたって   北 野 重 人

リカレント教育の四半世紀   玉 岡 雅 之

どうする新生活   分 寺 杏 介

◆六甲アルムナイエッセー

日本経済の現状と未来   團 野 廣 一

「六甲颪(おろし)から六甲台へ」   沼 澤 正 二

学生の皆さんへ 逍遥遊なキャリア形成   寺 田 伊 織

◆凌霜ネットワーク

六甲男声合唱団4年ぶりの定期演奏会開催!!   永 井 哲 郎

凌霜法曹会のご案内   廣 政 純一郎

◆表紙のことば 春の訪れ   本 間 健 一

◆六甲台就職相談センターNOW

新企画として、「OBOG対談」を始めました   浅 田 恭 正

◆学生の活動から

クラフトチョコレートで道をひらく   長 野 亘 孝

◆本と凌霜人

『人生100年時代の相続と税』   大 谷   明

◆クラス大会 さんさん会、KUC37会

◆クラス会 互志会、しんざん会、しこん会、むしの会、双六会

◆支部通信 東京、神戸、デトロイト

◆つどい 凌泳会、凌霜LTC30、凌霜謡会、水霜談話会、

大阪凌霜短歌会、東京凌霜俳句会、大阪凌霜俳句会、

凌霜川柳クラブ、神戸大学ニュースネット委員会OB会

◆ゴルフ会 廣野如水凌霜会、芦屋凌霜KUC会、花屋敷KUC会

◆物故会員

◆国内支部連絡先

◆編集後記   行 澤 一 人

◆投稿規定

 

<巻頭エッセー>

 

神戸大学における情報基盤の状況

DX・情報統括本部情報基盤センター長・教授 鳩 野 逸 生

 

現代の大学における教育・研究・業務の遂行にあたっては情報通信技術(ICT)の活用が必須であることは論を待たない。神戸大学情報基盤センター(2022年4月からはDX・情報統括本部情報基盤センターに改組)は、継続して(1)教育研究用計算機システム(KAISER: Kobe Academic Information System for Education and Research)、(2)情報ネットワークシステム(KHAN: Kobe University Hyper Network System)、教務システムを始めとする事務業務用情報システムの企画・導入・運用を担当してきている。本稿では、最近(2022年9月)の教育研究用計算機システムの概要及び今回の更新内容の中で以下の大きく変化した部分を中心に紹介する。

 

まず、一番大きな変更点としては、従来1,300台の情報教育用端末(Apple iMac)を導入していたが、KAISER2022においては全廃することを決断した、ということが挙げられる。理由としては、前回更新の2015年から2016年と比べて、ICT機器の導入コストが大きく上昇していることがあげられる。ご存知の通り2016年から現在まで、円安がかなり進行している。ICT機器は輸入品が多く円安の影響を受けやすい。また、期間中に消費税率の上昇もあった。限られた予算の中で、従来どおり情報教育用端末を導入するという選択肢を取ることができなかったというのが実情である。一方で、神戸大学では2019年入学生からPC必携化を実施しており、2022年までに全学年生がPCを所持しているはずであるため、教育用端末の代替として利用できるという状況であったのも理由の一つである。さらに、プログラミング教育などのように各自でプログラミングを行いながら授業を実施する必要がある場合に対応するため、学生が所持するPCのOSがWindowsでもMacOSであっても対応可能なWebベースプログラミング環境を導入した。講義室へのネットワークアクセスの整備は、PC必携化の年次進行とともに実施されており、講義室でPCをネットワークに接続して利用しながら授業を受けるということが可能な状態になっている。

次に大きな点としては、クラウドサービスの導入であろう。現在、便利なサービスが様々な形で提供されており、しかも基本的なサービスの範囲は無料で利用することができる。学生や教職員は、それらのサービスを利用することが当たり前になって来ている。一方で学生はほぼ100%スマートフォンなどの携帯情報機器を所持しており、それらの機器でネット接続を行うことが当たり前であることはご承知のことであろう。そのような状況では、現代の様々な形態の情報機器に対応することが必須であるが、それらの機器の変化は非常に早い。KAISER2022は6年間のリース契約であるため、リース期間中に変化に対応することは予算上困難である。そのためKAISER2022では、クラウド上のサービスを情報基盤センターが提供するアカウントで利用できる環境を導入した。従来より、神戸大学ではMicrosoftとライセンスの包括契約を結んでいるが、オフィスソフトウェアの利用権だけでなくMicrosoft365の様々なクラウドサービスが含まれている(神戸大学はMicrosoft365の有料の契約を結んでいるため、オフィスソフトウェアだけでなく、付随している様々な機能が利用可能である)。KAISER2022においては、それらのサービスを利用するために必要なアカウント情報を、KAISER2022のユーザ管理システムと同期する機能を導入した。これにより学生や教職員は情報基盤センターが発行するKAISER2022のアカウントにより、これらのサービスを利用できる。また、2020年からGoogle Workspace for Educationのサービスを提供していたが、今回の更新で統合ユーザ管理システムと同期される機能を導入している。

さらに、Microsoft365で利用可能な機能には、メールサーバ機能やメールのセキュリティ対策機能も含まれており、従来情報基盤センターに設置されたサーバ上に構築していたメール機能を Microsoft365に含まれるExchange Online上へ全面的に移行した。メール機能のExchange Onlineへの移行は、ユーザのメールの使い方に対する大きな変更であり、学生・教職員のユーザにご負担をおかけした面もあるが、メールを取り巻く環境の変化(特に情報セキュリティ関連)の変化は大きく、リース期間中大きな変更が難しい従来の方式では対応が困難であることから止むを得ないと考えている。実際、いわゆるサイバー攻撃は電子メールを使って行われることが多いが、KAISER2022への移行後、明らかにコンピュータウイルスを含む添付ファイルの開封、フィッシング(ID、パスワードなどの搾取)を目的としたリンクのクリックなどの事案が減少している。

これらのクラウドサービス導入の問題点としては、サービス内容が全世界向きに共通のものであるため、神戸大学内のユーザが求める機能とマッチしない場合があることがあげられるが、現状では導入の利点が上回っていると考えている。

この他、大きく変更になった点としては、学生のパソコンを利用した学習を支援するためのLMS(Learning Management System)のベースとなるソフトウェアがオープンソースの moodleから、Canon IT社の In Campusに変更になった点と、グループウェアがサイボウズ社のGaroon(ガルーン)に変更になった点があげられる。いずれのシステムも9月の導入以来、データの移行、マニュアルの整備、講習会の開催などを経て4月から本格稼働予定である。

今年度末(2023年3月)を持ってKAISER2022の導入作業はひとつの区切りを迎える。一方でこれから、神戸大学における教育、研究、業務に細かい修正を加えながら、旧システムとのギャップを埋めていくとともに、新たな適用可能性を追求していくことが求められる。さらに次回の更新(6年後)に向けてKAISERの提供機能の検討を進めて行く必要がある。

 

以上、本稿では2022年9月に導入したKAISER2022の大きな変更点を中心に説明した。国立大学は、いわゆる法人化以降大きな変化にさらされている。特に予算面の制約が年々厳しくなって来ているが、情報技術に対する期待、要望は増々大きくなっている。ところが一般に要望を多く取り入れすぎると情報システム自体の複雑さが増大して導入コストが増大する。多大なコストをかけて導入したとしても、その複雑さ故に改造するのが困難であったり莫大な費用が必要である場合がある。また障害が発生したときの原因追求や復旧に多大な時間を要する場合がある。

情報システムは利用している機器やOSなどの関係上一定期間毎に更新する必要があるが、複雑な情報システムの更新には多大の費用がかかる。さらに長期間、提供機能への要望の変化がないことはあり得ないので、機能の追加、改良などが必要であるが、さらなるシステムの複雑さをます要因になりかねない。一方でクラウドサービスなどの一般に提供されているサービスやパッケージ・ソフトウェアを利用することも考えられるが、必ずしも要望されている機能と適合するとは限らない。このような状況では、情報技術によって教育・研究・業務のどのような部分を支援するのかを分析して取捨選択するというプロセスが必要不可欠となる。これらのプロセスにおける意思決定を大学として進めるには、現在の情報基盤センター、DX・情報統括本部だけの陣容では到底困難であり、さらなる改革が必要であると感じている。

 

筆者略歴

1986年大阪大学大学院工学研究科博士前期課程修了。 日本電気(株)、大阪大学を経て1998年神戸大学助教授、2003年より同大情報基盤センター教授、2022年4月DX・情報統括本部情報基盤センター長となり現在に至る。博士(工学)。神戸大学情報基盤センターにおいて同大ネットワーク企画・管理・運用・セキュリティ管理業務に従事するとともに、ネットワーク運用技術、情報セキュリティなどの研究に従事。情報処理学会などの会員。