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新着情報

2024年10月9日
会誌「凌霜」

凌霜第443号

 

 凌霜四四三号目次

表紙写真 昭50経 村 田 克 明
カット  昭34経 松 村 琭 郎

◆巻頭エッセー
Kobe University Interdisciplinary Master Program(KIMAP)への誘い:今こそリスキリングを  西 山 慎 一
六甲台時代を振り返って~「複雑さ」受け止める力を   稲 村 和 美
目 次
◆母校通信   松 尾 貴 巳
◆六甲台だより   行澤一人、鈴木 純、清水泰洋、四本健二、村上善道
◆本部事務局だより   一般社団法人凌霜会事務局
第13回定時総会開催/臨時理事会
第6回支部代表者会議開催
第17回(令和6年度)社会科学特別奨励賞(凌霜賞)授与式
ご芳志寄附者ご芳名とお願い/事務局への寄附者ご芳名
◆(公財)六甲台後援会だより(78)
◆表紙のことば 六甲台図書館 壁画「青春」   村 田 克 明
凌霜会創立100周年特別企画
バックナンバー再録(「凌霜」239号・昭和49年1月発行)
六甲台壁画「青春」秘話   中 山 正 實
◆学園の窓
しゅはり   水 野 倫 理
経営史の新たな地平を目指して   西 村 成 弘
着任のご挨拶にかえて   中 村 知 里
研究者の「転地療法」   江 夏 幾多郎
戦後の卒業アルバムと学内メディアで見る「ここが変わった神戸大学」   住 田 功 一
◆六甲アルムナイ・エッセー
文部行政の方向性   岡 村 二 郎
「神戸大学体育会系公認課外活動団体OBOG会連合会」のご紹介   新 垣 恒 則
西欧型の議会選挙から日本の総選挙を推し量る   後 山   茂
播磨支部との不思議なご縁   淺 井 良 昭
◆凌霜ネットワーク
童研童友会(児童文化研究会同窓会)創部110周年の集い   奥 村 昌 彦
神戸大学サムライ凌霜会   野 田 敬 二
◆六甲台就職相談センターNOW
「多様性」―その拡がりと価値―   浅 田 恭 正
◆学生の活動から
第19回神戸大学七夕祭を終えて   森   美 優
◆クラス会 しんざん会、イレブン会、むしの会、双六会、
神戸六七会、大阪18会
◆支部通信 東京、京滋、神戸、島根県
◆つどい 凌霜謡会、緑蔭クラブ、二水会、シオノギOB凌霜会、
水霜談話会、大阪凌霜短歌会、東京凌霜俳句会、
大阪凌霜俳句会、凌霜川柳クラブ、
神戸大学ニュースネット委員会OB会
◆ゴルフ会 茨木凌霜会、芦屋凌霜KUC会、
西宮高原ゴルフ倶楽部KUC、花屋敷KUC会
◆物故会員
◆国内支部連絡先
◆編集後記   行 澤 一 人
◆投稿規定

<巻頭エッセー>
Kobe University Interdisciplinary Master Program(KIMAP)への誘い:今こそリスキリングを

経済学研究科教授 西 山 慎 一

はじめに

神戸大学藤澤学長が提唱する異分野共創の理念に応え、経営学研究科・経済学研究科・法学研究科の三部局合同による異分野共創型修士プログラムであるKobe University Interdisciplinary Master Program(KIMAP)が2023年10月に開設された。開設から1年が経ったがKIMAPの知名度はまだ低く、潜在的な志願者層に十分に周知されているとは言い難い。そこで本稿では、潜在的な志願者となってくれるであろう神戸大学同窓生の皆様にKIMAPをリスキリング(学び直し)の機会としてアピールしたい。

KIMAPの概要
まず誤解なきよう説明すると、KIMAPは独立した研究科があるわけではなく、学生は従来通り三研究科のいずれかに所属して、伝統的な経営学、経済学、あるいは法学の修士号を取得する事になる。従来と違う点は、三研究科はそれぞれにKIMAPプログラムを開設しているが、これは三研究科で共通のカリキュラムとなっており、3つの異分野共創フィールドが策定されている。分野横断的に科目を履修し、フィールド認定要件を満たせば、学位とは別にフィールド認定証(Field Certificate)が授与されるというのがKIMAPの肝である。従来の学位プログラムが縦割りの学びであったところ、KIMAPでは横串を刺して分野横断的な学びを奨励しているというイメージである。(図参照)
KIMAPの特徴は4つあり、(1)英語で授業を受け、英語で修士論文を執筆、(2)日本人と外国人による国際共修、(3)経営学・経済学・法学の分野横断的な学び、(4)海外から有力研究者を招聘して集中講義を実施し、先端的な学びの機会を提供している、などである。補足して説明すると、(1)は、KIMAPの前身であるGMAP(グローバル・マスタープログラム)の伝統を引き継いだ点である。(2)は(1)とも関連するが、日本人と外国人が共に英語で学び、議論し、協同作業を行うことにより、異文化コミュニケーションの機会が得られる。英語を習得する上では、異文化コミュニケーションこそが近道でもある。(3)はすでに説明したとおりであり、まさにKIMAPの肝である。(4)については、2023年秋学期と2024年春学期の実績で言えば、スタンフォード大学・ジョージタウン大学・ヴァンダービルト大学(以上、米国)、グラスゴー大学・ケルン大学・ゲッティンゲン大学(以上、欧州)、精華大学・南陽理工大学・シンガポール経営大学(以上、アジア)など、世界中から有力な研究者を招聘し先端的な集中講義を実施した。その他の詳細については、KIMAPのHPをご覧頂きたい。(https://www.group.kobe-u.ac.jp/kimap/index.html)
なおKIMAPはフルタイムの博士前期課程(修士課程)である。入学時期は4月入学と10月入学(経営学研究科は10月入学のみ)があり、日本人及び外国人が入学しやすいようになっている。余談だが、大阪公立大学では国際化を推進するために英語での授業と秋入学を導入するとマスコミに注目されているが、KIMAPではすでに導入済みである。

神戸大学同窓生の方へ
リスキリングのあるべき姿を議論する有識者会議「日経リスキリングコンソーシアム・アドバイザリーボード」は、働く個人に向けて以下のように提言している。「経済環境の変化が加速し、「生涯現役」が標準となるなか、リスキリングは、個々の働き手が尊重され、幸せな人生をつかむための、必須の課題である。今いる会社に漫然としがみつくだけでは、望むキャリアも、生活の安定も得られない。生涯を通じて必要なスキルを獲得し、自分自身の可能性を広げ続けることが、これからの時代を生き抜くカギとなる」。今後拡大していくと思われるジョブ型雇用の社会では、自律的なキャリア形成とともに社会の要請に対応したリスキリングが重要となっていくだろう。
KIMAPは社会人の皆様にリスキリングを提供する場でもあり、特に英語スキルやデータ分析に関するスキルなどが身につくと自負している。また起業やESGに関するグローバルスタンダードかつ先端的な知識を習得する機会も提供している。現在のキャリアに疑問を持ち、キャリアアップやキャリア転向(例えばエンジニアからの転向)を検討されている同窓生の皆様におかれては、ぜひ前向きにKIMAPを検討して頂きたい。
また、大学において実務家教員を目指す方にもKIMAPは絶好の機会を提供している。KIMAP修了後、博士後期課程に進学して研究者を目指すという道もある。あるいはKIMAPを海外大学院進学へのスプリングボードとして利用して頂いても構わない。ビジネスの道に残るにせよ、アカデミックなキャリアに転向するにせよ、KIMAPはキャリア形成上の幅広い選択肢を用意している。
最後にKIMAPは多忙な社会人も受験しやすいよう配慮されており、遠隔地や海外在住の方でも受験しやすいオンライン試験なども用意されている。入試制度の詳細についてはKIMAPのホームページを参照して頂きたい。

企業で人材育成を担当しておられる方へ
リスキリングは企業の人材育成戦略としても重要である。先の提言は企業に対して以下のように記している。「リスキリングの主体は個人だが、教育投資を行い、成長機会を提供するのは、企業の責務である。経営戦略の柱にリスキリングを位置づけ、人材の革新を通じた組織変革を進めることができなければ、企業もまた生き残ることはできない。リスキリングは成長の源泉である人材獲得の最大の武器である」。
もちろんリスキリングの重要性は従来から企業に認知されており、高度グローバル人材を育成する手段として海外派遣留学などが採用されていた。しかし海外留学は生活面でリスクが高く、さらに近年は学費も高額となっている。また帰国後、せっかく育った人材がライバル企業に引き抜かれて退職するリスクもあり、教育投資に見合うリターンが近年望みにくくなっている。
一方、KIMAPであれば、国内の安全な環境で英語環境に没頭でき、なおかつ国立大学なので学費も低額である。また単に英語ができるだけでなく、異文化コミュニケーションを通じて外国人といかに協同作業を進めるかも経験できる。安全かつ安価に高度グローバル人材を育成できるのがKIMAPの強みである。また国内大学院であることから、卒業後に引き抜かれるリスクも相対的に低いと思われる。

まとめると、高度なスキルを備えかつ、英語が堪能な高度グローバル人材を企業単独で育成することは困難であるが、KIMAPならそれが安全かつ安価に可能である。高度グローバル人材育成の手段として、リスクの高い海外派遣留学や非効率なOJTではなく、ぜひKIMAPを前向きに検討して頂きたい。あるいは自律的なキャリア形成を志す社員に対しては、ぜひ2年間の休職を認めて、KIMAP修了後に復職できるような制度を整えて頂きたい。提言にあるように、そういう成長機会を提供することも企業の責務だと思われる。

参考文献
日経リスキリングコンソーシアム・アドバイザリーボード
『リスキリングはこれからの生存戦略』
日本経済新聞 2024年5月22日

<巻頭エッセー>

六甲台時代を振り返って~「複雑さ」受け止める力を

                     前尼崎市長  稲 村 和 美(平8法)
6月に行われた総会にて、凌霜会の理事に就任させていただきました。4月13日に開催された凌霜会創立100周年記念式典の各年代卒業生が思い出を語るパネルディスカッションにもお声がけをいただき、改めて自身の六甲台時代を振り返るとともに、神戸大学の歴史の重みや大学に期待される役割、関係者各位のご活躍と凌霜会ネットワークの幅広さを感じたところです。この度はその延長戦ということで、思いを綴ってみたいと思います。

「私」が「あなた」を助けるのではなく「私たち」へ
私は1992年に一浪して法学部に入学。最後の教養部生となった学年です。自分の将来や目指す職業に具体的なイメージを持てておらず、それを在学中に探したいと思っている新入生でした。少なくとも、政治家になる道を選ぶことになるなど思いもしなかったことは確かです。そんな私が兵庫県議2期、尼崎市長を3期、約20年間も政治家を務めることにつながる大きな転機となったのが、3年生のときに発生した阪神・淡路大震災でした。
私は奈良市内の実家から遠距離通学をしていたので自宅に被害がなく、大学が長期休校となるなかで、神戸市内の小学校に泊まり込み避難所ボランティアとして活動したことが原体験となりました。避難者の数には足りない支援物資をどのように配るのか、喫煙や飲酒に関するルールづくりなど、毎晩のように避難されている方、学校の先生方、そしてボランティアで話し合いながらの避難所運営は、私にとって民主主義や自治の学校ともいうべき経験でした。自分たちで決めたルールは非常によく守られるのだということも実感しました。
それまで、社会に対する不満や批判を口にしながらも何をしたらよいのか、何ができるのか分からず、外野から評論しているばかりだった自分自身を顧みる契機となるとともに、自分は被災していないことで胸を突かれるような場面を経験するうちに、「私」が「あなた」を助けるのではなく、「私たち」の問題として、自分なりに被災地のこれからに参画したいと考えるようになりました。被災者の住宅再建が進まない状況下、公的支援のあり方を変えていけないかとの思いで参加した被災者支援の政策勉強会での尼崎市議との出会いが地方政治との接点となり、結果的に尼崎で政治家の道を歩むことになったのですが、自治のまちづくりに対する思い入れは、その後もブレることなく、自身の根幹をなすものとなりました。
まず自分が変わることから
避難所が解消されていく頃からは、再開された神戸大学内にボランティアセンターを設立すべく発起人の一人となり、先生方の協力も得ながら取組を進めました。実を言うと、他の私大では早い段階で同様のセンターが立ち上がっており、どうして被災地にある神大にセンターがないのか!と当初は不満に思っていたのですが、まさに、社会を変えていくということは自分が変わることから始まるのだと思い至った矢先のこと、学生自身がまず動き、それを大学に公認してもらえばよいのではないかと考え、設立にこぎつけた「神戸大学総合ボランティアセンター」の初代代表となりました。
もう時効だと思うので書いてしまいますが、まず活動拠点となる場所が学内にないのがネックで、最初は文学部の自治会の部屋を又貸ししてもらっていたのですが大学側からストップがかかり、さまよった挙句、結局アルバム委員会の部屋を間借りして活動することに。公認申請をしたときには、かつての学生運動のように留年を続けて卒業しないのではないかと職員の方に言われ、3年間の仮公認の末にようやく公認サークルとなりました。
ボランティアや政治に参加することに対して、もっと面映ゆさやタブー感のない社会にしたいと思うと同時に、そのためには自身が信用を得ていくことが必要なのだということも学びました。今となっては懐かしい限りです。
刺激的な出会いと失敗させてもらえるありがたさ
よく、まちづくりやイノベーションには「よそ者、若者、馬鹿者」なる要素が必要だと言われます。それだけで取組がうまく離陸して安定飛行に到達できるわけではないとしても、学生時代の自分を振り返ると、なるほど上手い表現だと思います。総ボラを設立しようと考えたのも、現場に身を置き、もがきながら活動することが学びへの意欲につながることを体感し、いずれ震災を知らない世代になっていく後輩のみなさんにもぜひ地域に参画してもらいたいと強く感じたからです。
被災地のフェーズが移るにつれ、手応えを感じていた段階から、限界を感じることが多くなっていきましたが、「この人の年齢になる頃には自分も力をつけていたい。そのためにいま、学んで経験を積んでいこう」と思わせてくれる多くの方々との出会いがありました。また、粗削りな学生の活動を支援してくれる大人も多く、とても勇気づけられました。
印象に残っていることの一つに、総ボラを設立した後に同様の各学校のボランティアセンター機能をネットワーク化できないかと試みたときのことがあります。各校の代表者が新たにもう一つサークルを作ったような形になってしまい、当初の狙いからすると上手くいかなかったのですが、支援してくれていた県社会福祉協議会のボランティアセンター所長が、過度に介入するでもなく、見捨てることもなく、要するに寛容に失敗も見守ってくれたのです。
市長在任中は、「課題先進都市」から「課題『解決』先進都市へ」をスローガンに、多様な立場の方々とともに社会実験に積極的に取り組むとともに、若者の居場所や手応えを育むユースワークの推進にも力を入れました。とかく無謬性を求められる行政を預かるなかでも、チャレンジ精神と失敗も含めて責任を担う心づもりをもって臨んでこられたのは、こういった学生時代の経験が大きかったと思います。
「なるように、する」~多様な主体の摩擦と連携あってこそ
いま目の前にある困りごとに手を差し伸べるボランティアと、同じ条件の方には公平にサービスを提供すべき行政の取組には、当然ながらそれぞれの長所短所、役割があります。どちらが良い悪いではなく、異なる強みを連携させていくことが必要なのだという、当たり前だけれど、簡単ではないことの重要性も学びました。ボランティア団体同士でもよくあることでしたが、一見、対立しがちなもの同士が、俯瞰してみると実は補完関係となっていることが多く、摩擦を乗り越えて連携できればより大きな成果を期待できる。そもそもミッションや強みが異なる以上、当然に生じる摩擦を避けてばかりではさらに対立が深まり、相互理解には近づけない。隣の芝は青く見えるし、人間は理屈だけで動くものではないというのは自分自身でも思い当たることで、「言うは易し、行うは難し」ではあるのですが、さまざまな人の機微に触れる経験のなかから、物事を俯瞰してみようと心掛ける姿勢や、「なるようになれ」と諦めるのではなく、「為さねばならぬ」と思い込み過ぎるのでもなく、そのバランスを取りながら「なるように、する」という感覚を培ったと思います。もちろん、バランスがすべてではなく、突破力が必要なことも多々あるわけですが、自分自身も学びながら強かに「粘る」という姿勢は政治に携わるうえで大切なことの一つだったと思います。
「複雑さ」受け止める力を
ネット社会となった現代、若者を中心に、私たちは同じ指向や価値観の人とつながりやすく(エコーチェンバー)、未知の情報や関心の低い情報から隔離されがちな(フィルターバブル)状況に置かれていることが指摘されています。タイムパフォーマンスやコストパフォーマンスを重視する若者が増えている現状を踏まえた一定の対応も求められる一方で、大学にはやはり、実社会の「複雑さ」を受け止めるための学びの機会が提供される場であることを期待したいと思っています。
来年で阪神・淡路大震災から30年。今や神戸大学には地域連携推進本部があり、全学をあげて自治体や地域との連携、学生のボランティア活動を幅広く支援しています。本当に感慨深い思いです。学生時代に、自身が主体的に責任を負い、プロジェクトの当事者となって取り組む経験の重要性は、強調してもし過ぎることはないと思います。
大学全入時代といわれ、大学の役割が問い直される時代を迎えていますが、自身の視野や専門性を高める環境があり、多様な学部の仲間や先輩、師に出会える大学時代の経験、大学という機能の社会的重要性は、年齢を超えたリカレント教育も含めて、大きいものがあると思います。私も改めて凌霜会へのご縁をいただきました。微力ですが神戸大学のこれからの歩みに参画し、学び続けていくことができればと思っています。